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劉 岸偉 氏 
(東京工業大学教授) 


国費留学生の選別方式に課題  人文系留学生増やし相互理解促進を

 ――留学生受け入れの課題点について。
 日本は今後「いかに一流の人材をひきつけて育てるか」という観点から留学生政策を見直す必要があると思います。例えば国費留学生の質が以前と比べてかなり落ちてきていますが、これは、国別に人数枠を配分し、選考を各国に任せていることも一因ではないかと思います。日本政府の奨学金なのですから政府が責任を持って選別し、本来の目的に沿う形にすべきです。今後は留学生のレベル別に配分額を変え、より多くの留学生が受給できるようにして、予算を効果的に活用することが必要ではないでしょうか。

――近年、卒業後に日本企業等で活躍する留学生が増えています。
 日本はこのままでは少子高齢化で労働人口が縮小していく一方ですので、積極的に外国人労働力を受け入れていかざるを得ないでしょう。受け入れた労働者は日本に住み着いて移民となるわけですから、ヨーロッパの教訓に学び、ふさわしい政策を実施していく必要があります。移民問題は日本人の覚悟の問題なのです。
 現在、東アジアでは人材の流動化と経済水準の均質化が進んでおり、東アジア共同体についての議論も盛んですが、その実現は容易ではないと思います。ヨーロッパで共同体ができたのは、長年戦争を繰り返してきた歴史から「もう争いごとはこりごりだ」という気持が欧州諸国に強く、アジア諸国よりもはるかに強い相互のつながりが出来上がっているからです。アジアは特に日中韓の間に歴史に対する共通認識ができておらず、相互の言い分がぶつかっています。今こそ、各国が共同で戦後の検証作業と総括を行うべきです。
 そのためにも、人文系の留学生をさらに増やす必要があります。留学生の流れは市場原理で動くので、流行している情報系分野などの志望者が増える傾向にありますが、偏りが生じないように政策的に誘導するべきです。日露戦争後、日本が大国ロシアを相手に勝利することができた秘密を学ぼうと大量の留学生が来日し、実学の分野が重視されました。しかし技術者になるにも、まず哲学を持たなければなりません。社会の健全な発展のためには実学だけでは不十分であり、ソフト分野の人材のさらなる拡充が必要なのです。関係諸国が経済利益のみを追求するだけでは、東アジア共同体の建設などとうてい不可能です。共同体を根底で支えるものは相互理解ですから、まず相互の文化的背景を知り、地道に心の交流を図っていく努力が必要なのです。


りゅう・がんい  
1957年北京生まれ。北京外国語学院アジア・アフリカ学部卒。東京大学総合文化研究科比較文学・比較文化博士課程修了、89年博士学位取得、98年より現職。専門は比較文化史、比較文学研究、中国近代思想史。