Top向学新聞今月の人胡 昕さん


胡 昕さん (中国出身) 
(早稲田大学教育学部) 


改善すべき報道の偏り  双方向的交流が必要

――研究の内容について。
  私はマスメディアの発展とその社会的役割について研究しています。
  マスメディアの役割の一つは情報を社会に伝えるということです。従って何らかの不祥事があった場合、それもはっきり伝えていくことが必要です。企業は製品の欠陥情報などの発表を控えようとします。中国でも体制にとって都合の悪いこと等は報道規制されがちで、SARSのことがなかなか報道されなかったのはその一例です。しかしそのせいで国際社会に悪影響を与えてしまいました。ですから自発的に問題を探し出し、企業や社会、政府を監督することもマスメディアの基本的な役目になってくると思います。
  かといってマスメディアの報道はすべて真実というわけではなく、8割は事実でも2割は自分で想像した部分だというくらいに考えてもいいと思います。
  例えば最近の日本での外国人犯罪の報道の仕方は、中国人全体が悪いというふうに聞こえてしまいます。電車の中で中国語を話しているだけでいやな目で見る日本人もたまにいますが、そういう人はマスメディアの影響を受けているのでしょう。視聴者はマスメディアの伝える情報が本当に正しいのかどうか判断する目をもったほうがいいと思います。

――これからのマスメディアが目指すべき方向性は。
  例えば大学教授などの専門家や一般の視聴者が番組製作者と対話し改善点を指摘する場を設け、一方的な報道にならないようにすることが必要です。マスメディアとは人の交流の一つの姿ですから、交流は当然双方向的であるべきです。日本のマスメディアには視聴者との交流をあまり受け入れない面があります。だからこそもっとこのような提言をしていくべきだと思うのです。
  日本のみならず中国のマスメディアにもまだ課題が多くあります。体制に従ってしまう傾向や、海外の人たちがどのような考えを持っているのかということについての報道が少ないことなどです。アメリカの企業人が「これから中国は私たちにとって大事だ」と話しているインタビューなどは見られますが、日本人やアメリカ人がどういう暮らしをして何に関心を持っているのか直接紹介する番組は少なく、自国に都合の良い話だけ報道しています。こういった偏った体質は少しずつ変えていかなければなりません。中国のマスメディアは日本のようにもっと様々な国に出て行くべきです。ある場に中国の記者が1人いるということは、その背後の13億人がそのことについて知りたいからいるということになりますが、もしいないならそのことに無関心だと思われても仕方ありません。中国は広くて大きいからみんな友達になれという発想ではなく、お互いに関心を持ち合おうとする姿勢が一番求められることだと思います。

――将来はどうしますか。
  日本で博士課程まで進学し、帰国後は教授になって日本で学んだことを中国の学生に伝え、中国の内向きな面を変えていこうと思っています。中国には少し新鮮な空気を入れたほうがいいのです。一度国外に出た人はずっと国内にいる人とは多少なりとも考え方が違うところがあります。一方ずっと中国にいる人たちの強みは自国のことをよく知っているということです。お互いから良いものを吸収して母国の発展のため前向きに努力していくべきだと思います。