Top向学新聞今月の人VO TRONG NGHIAさん


VO TRONG NGHIAさん  (ベトナム出身) 
(東京大学大学院工学系研究科) 


日本初の木造ビル設計  全国的なプロジェクトに

――日本初の木造ビルの設計をしているそうですね。
  5階建てで、1階はコンクリート、上の4階を木造にする計画です。建築基準法では4階以上の木造建築は作っていけないことになっているので、様々な実験を行い、評定とよばれている大臣からの認定を取って初めて建てることができます。今年の8月に着工予定で、指導教官や建築家、材木会社など多くの方々に協力して頂いています。

――なぜ木造にすることになったのですか。
  私が設計しているのは金沢駅西ビルといいますが、金沢は非常に街並みが美しいところで、駅の西口に神社があることなどから、木造にした方がいいだろうということになりました。また、金沢は湿度が高いのですが、木造建築にすれば木が湿気を吸い取ってくれます。木は有機材料なので、乾燥するときは木自体が湿気を吐き出し、湿度が高いときは湿気を吸い取ってくれるので、人間の生活には良いのです。
  日本では千数百年以上も前に法隆寺ができているのですから、木造5階建てビルもできないことはないと思いました。やってみると技術的には可能なのですが、法律面をクリアするほうが大変です。評定を取るための実験などに莫大なお金がかかります。しかしこれが実現すれば、今後街中のあちこちに木造のオフィスビルが作られることになるので、非常に意義のあることだと思います。
  今の法律では木造では3階までしか建てられず、それ以上のものを建てようとすれば5階の場合2時間耐火、4階では1時間耐火の基準をクリアしなければなりません。これは火事が起きたときに鎮火後も倒れないようにするための基準なのですが、4階ならば何とか基準をクリアできるのではないかと思ったのです。今後の目標は5階全部を木でつくれるようになることです。実現すれば、日本の高度成長期に建てられた街並みなどは少しは変わるかもしれません。

――設計しているビルの形は?
  全体の形は四角い箱型で、内部の空間は非常にきれいです。総面積は330平米あり、住宅二つくらいの規模で、エレベーターもつく予定です。完成は今年末くらいではないかと思います。
  この木造5階建てビルの設計は、最初に私が自分で立ち上げてリーダーシップを取ってやっていたのですが、今では一つの全国的なプロジェクトになっていて、指導教官に指導していただきながら参加しています。このようなプロジェクトが実現すればすごいことだと思います。技術面でもまだすべてがクリアされているわけではなく苦しんでいるところですが、皆と一緒に解決していきます。

――何か新しいことに挑戦したかったのですか。
  革命的に新しいもの、役に立つものを作ることができれば何よりうれしいことです。せっかく日本に来ているので、何か人のできないことをやりたいと思ったのです。木造ビルができれば日本に相当貢献できるでしょうから、留学して学ばせていただいた恩返しになると思います。

――日本に留学して学んだこととは。
  法隆寺に代表される木造建築は、日本文化の深さを表しているものの一つではないかと思いますが、そういった木造建築技術は私にとって非常に勉強になります。現にまだ法隆寺は建っているわけですから、その技術は現在でも通用することが立証されているわけです。一般の建築技術ではなく、法隆寺を作るためだけに使われている少し特殊な技術ではありますが、それらを現代の様々な建築に応用して活かしていけたらよいのではないかと思います。
  日本に来てから木造建築について学び始めたのですが、ベトナムに帰ってからも日本で学んだことは役立つと思います。建築は自然の中に存在する訳ですから自然を良く理解して作った方がいいのです。自然のものはそのまま存在していても違和感がないでしょう。そういう自然の中にこそ様々な建築のヒントが隠されているのです。