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検証 留学生政策(2)

Top向学新聞>2017年9月号

検証 留学生政策 


(2) 30万人計画へ


「誘引」から「獲得」へ


英語コースにジレンマも



 前回記事では10万人計画達成に至る留学生受け入れを概観し、「量」から「質」の確保へと目標が転換される時点まで辿った。その後の留学生政策は、高度人材予備軍を育成し活用する、日本国内の産業政策としての色合いを強めていく。そして世界的な留学生獲得競争が激化する中で、海外に出て優秀な学生を「獲得する」30万人計画へと発展していく。



●プル要因重視型


 2003年の10万人計画の達成後には、留学生を「高度人材予備軍」と捉え、産業人材として受け入れようとする動きが相次いだ。構造改革特区で留学生の卒業後の就職活動が180日可能になり、後に全国に拡大、09年には1年間へと期間が伸長された。規制緩和が進む中、日本企業への就職を呼び水に、留学生誘致を狙う政策が始動する。


 07年度から経済産業・文部科学両省が実施した「アジア人財資金構想」は、IT、環境、ものづくりなど日本が強みを持つ分野を専攻するアジア地域出身の優秀な留学生を選抜し、留学費用を支援する無償奨学金制度だった。


 採択された大学・企業群からなるコンソーシアムが、新たに海外から留学する学生を中心に、就職意思を持つ留学生を選抜。一人あたり国費留学生相当(月16万円)を支給した。コンソーシアムにはソニー、日立製作所、花王等の一部上場企業をはじめとする日本企業が多数参加し、産学協同の実践教育プログラムやインターンシップを実施した。プログラムの質は高く、留学生向けにもかかわらず日本人の参加希望者が出るほどだった。


 また、留学生の日本語能力と日本の企業風土への理解不足が、日本企業への就職が進まない一因となっていることから、ビジネス日本語やビジネス慣習を学ぶ特別コースを設置。これらの支援策により、卒業する留学生の就職率が例年3割以下となっていた中でも、同プログラムを経た留学生の就職率は67%に達した。


 奨学金や就職支援などで誘導する“プル要因重視型”の留学生政策はアジア人財資金構想でピークを迎え、一定の成果を出した。


「アジア人財資金構想」参加留学生の就職状況(平成19~22年度合計、経済産業省資料より作成)
「アジア人財資金構想」参加留学生の就職状況
(平成19~22年度合計、経済産業省資料より作成)



●海外に展開


 07年の政府の「アジア・ゲートウェイ戦略」を境として、留学生政策は、「受け入れ」から、積極的に海外に展開する政策へと変化していく。アジア各地の教育機関と一体となって日本への留学生予備軍を増やすための協力関係の強化に踏み込む、「国際共同教育」へと方向転換をはかった。同年の政府「骨太方針」では、国際的な大学間の相互連携プログラム(単位互換、ダブル・ディグリー等)の実施、海外現地での募集・選考体制を強化し渡日前に入学許可や奨学金の支給決定を行う方針を掲げた。



●30万人計画へ


 このような視点の転換を経て、“外へ”展開し優秀な人材を「獲得」する新たな国家戦略としての「留学生受け入れ30万人計画」が08年に福田首相により策定された。当時在日留学生数が12万人強という状況にあって、2020年までの30万人受け入れは野心的とも評され、日本の全学生数300万人の1割、非英語圏の先進国であるドイツ(12・3%)、フランス(11・9%)とほぼ同じ留学生比率を達成することを意味した。そのため文部科学省、外務省、法務省など6省が緊密に連携し、渡日前の情報提供から卒業後の就職に至る体系的な支援策の整備を目指した。


 具体的には、まず海外での日本留学のアピールを強化。積極的に日本文化を発信するブランド戦略を敷き、日本ファンを増やすことで留学希望者の拡大を図った。さらに、英国が留学生誘致の窓口として世界各国に「ブリティッシュ・カウンシル」を設けていることに倣い、日本留学の一元的な相談・情報提供窓口を在外公館や大学の海外拠点に設置して、留学希望者へのワンストップ・サービスを提供することを目指した。


 最大の“目玉”ともいえる施策が、国際化の拠点となる大学を30選定し、重点的に育成してモデルケースとする「国際化拠点整備事業(グローバル30)」であった。留学生にとって魅力ある大学づくりのために外国人教員の採用を増やしたり、英語のみで学位を取得できるコースを増やして大学のグローバル化を積極的に推し進めた。2020年度までに新たに学部33、大学院124の英語コースを設置し、コースの在籍留学生を1万6000人から5万人へと増やす目標を掲げた。


 国際化拠点大学で英語コースが整備されることで確かに言語のハードルは低くなり、世界規模で学生の流動化が強まる中で、その流れの一端を日本に引き入れることには繋がった。しかし、英語のみで学位を取得した留学生は、高い日本語力が求められる日本国内の企業への就職は難しい傾向にあり、せっかく優秀な人材を日本に迎え入れても定着に繋がらないジレンマを抱えることになった。



●「質の向上」とは


 30万人計画の達成も見えてきた今、10万人計画達成後に叫ばれた「質の向上」について今一度考えてみることが必要だろう。留学は生活面を含む全方位的な営みだ。人材の質を評価するだけでなく、生活環境自体の質の向上という視点からQOL追求型の施策が今後求められよう。それは日本社会で生きることの魅力をどう向上させるか、外国人と日本人とが共にどんな良い社会を作り上げていけるのかという、一人ひとりに課せられた課題である。日本社会自体の質の向上へと、目標を転換していくことが求められている。


・検証 留学生政策
(1)10万人計画達成前後  (2)30万人計画へ  (3)「ポストグローバル」



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