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未来を視る 林光氏

Top向学新聞>2018年11月1日号

特別インタビュー  未来を視る 


林 光 氏
知識創造工房ナレッジ・ファクトリー代表
日本未来学会会長


<はやし・ひかる>
慶應義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。博報堂入社後、博報堂生活総合研究所所長を経て2007年に社会評論家として独立。現在、知識創造工房ナレッジ・ファクトリー代表、日本未来学会会長。専門は消費社会論、生活者動向予測、自動車文化論など。内閣府男女共同参画会議将来像検討委員会委員の他、東京大学、慶應義塾大学、明海大学、群馬県立女子大学などの講師を歴任。父は未来学者の林雄二郎氏、伯父は元東大総長の林健太郎氏。


林光氏



少子高齢化を前提として社会政策を考え直すべき


将来はAIの成果活かしベーシックインカム導入も


 AIなど新技術の発展や、先進国を中心とする少子高齢化の進展など、我々を取り巻く現代の社会はさまざまな岐路に立っている。時代をどう読み、激変するであろう未来に向かって何をどのように学んでいくべきなのだろうか。未来学者の林光氏にお話をうかがった。


 
社会のあり方が技術を変える

――今急速に進化しつつある技術は社会をどう変えていくのでしょうか。

 技術が社会を変えていくのではなく、社会のあり方そのものが技術を変えていくのです。
 先日トヨタとソフトバンクが業務提携しました。モノづくり企業とモノを作らないIT企業の提携ですが、もし豊田社長が技術系企業として「自動運転には何が出来るか」と発想してしまったら危険です。孫社長はおそらく「生活に今必要な部分に自動運転がどう寄与できるか」という観点をもっています。孫さんが豊田さんをコントロールして初めてちゃんとした実ができるのではないかと思います。
 例えば昔「多機能電話」と呼ばれる有線電話がありましたが、使われた機能は留守番電話ぐらいで、イタズラ電話撃退や、外から留守電を聞くための暗証登録など9割の機能は使われませんでした。
 いっぽうNTTドコモがiモードを作ったときには、女性や若者など一般ユーザーに近い人たちに、「携帯電話とインターネットをくっつけたものがあるんだけど、どうやって使う?それをしたらどんな面白いことがある?どんな便利なことになる?」といったアプローチで開発しました。これが今のコンテンツの大元になっています。つまり、変化する社会の側がどういう技術を必要としているかが問題なのです。
 こう考えると、人工知能(AI)がITやIoTと関わりながらどのような形で進んでいくかによっては、非常に危険な問題が生じ得ます。アメリカの未来型経営者の一人であるイーロン・マスクは、「AIが発展する段階のどこかで、AIが人を攻撃しないということを法律的に定めるべきだ」と言っています。AIがディープラーニングという自己学習の実験をし始めた結果、例えば今までコンピュータが人間に勝てなかった将棋でも高段者を負かすようになって来ています。AIは人間なら普通は考えないようなことも考えますから、もし「この地球に最も悪影響を及ぼしている生物は何だろう」、「人間を滅ぼさないと地球が危ない」と考えていっせいに滅ぼし始める方向に行けば、その方法などAIは簡単に考えられます。これは止められるのか、実は分かりません。



少子化対策は既に手遅れ

――将来あり得る危機ですね。危機といえば日本の少子高齢化も最近クローズアップされています。

 まず少子化と高齢化は別のものです。少子化は生まれる子供が少ないこと。高齢化は長寿化というおめでたいことの表れです。この2つが合わさって構造的な高齢化が起こっています。これは国民の選択の結果であり、どんなに政治があがこうが、人々が子供を生む選択肢を選ばない限り改善されません。しかし今の社会では子供を生むなんて別にどうでもいいという人たちのほうが多いのです。
 あとは単純な算数の話になります。女性は子供を生める年齢が限られていますし、日本では結婚という戸籍制度によらないと子供が生みにくく、結婚生活とビジネス生活の両立もなかなか上手く行きません。選択を迫られたとき昔は結婚を選んでいたのですが、今は仕事のほうがずっと生きがいや楽しみ、富など様々なものをもたらしてくれる。一方で結婚生活の悲劇などが語られれば、どうしても仕事を選ぶ人が増えてしまいます。
 少子化対策は既に手遅れのような気もします。国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計では、2100年の日本の総人口は最も悲観的な数字で4~5千万、楽観的な数字で7千万人くらいです。しかし過去の人口増減のほとんどは悲観的な推計に合致しています。今すでに年間40万人ほど人口が減っていますが、近い将来100万人規模になります。毎年100万都市一つがなくなるのです。それがどんどん進んだ2065年の総人口推計は中間値で9千万人、労働人口は4500万人という超高齢化社会です。
 そうなると最大の問題は年金です。今の年金制度は、作られた当時には労働者7人で1人の高齢者を養う前提で作られました。しかし2065年には1対1、つまり収入の半分を他人を養うことに拠出することになり、これでは労働意欲も減退してしまいます。
 少子高齢化は、克服するのでなく、それを前提として社会政策を考え直さなければなりません。まず日本では年功序列制という、高齢になると給料が上がるシステムが弊害となっています。あまり働いてもいないのに高給をとっている人が早く辞めてもらうためにも定年があるわけですが、これは年齢による差別ですからアメリカなら完璧な憲法違反です。アメリカは定年制がないので定時採用もありません。日本のように一斉に大学生が横並びで試験を受けるなどナンセンスで、やはり個別に就職先を探して企業と契約を結び、能力がなくなれば次の年は契約更新がなく、契約年度中に実績を挙げればどんどん出世ができるといった形にすべきです。まずは雇用形態の変革が必要です。



面白いことを考えるのが生きる道

――学生は何を学んだか中身が重視されるようになりますね。今後重要となる学問分野は何でしょうか。

 技術的な分野は放っておいても進歩していきます。今必要なのはAI関連の人材ですが、グーグルは東大などでAIを研究している人のほとんどにツバを付けています。中国もAIの覇権を握ろうとしており、破格の条件で世界的に人材を抱え込んでしまう可能性がありますので、このままでは人材が日本に残りません。
 ただ、私はAIはアメリカと中国に任せておいて、日本はその成果を頂いてモノづくりに活かすのが生きる道ではないかと考えています。お金は搾取されても、それを使ってもっと面白いことを考えれば、その面白いことに対して世界がお金を払ってくれるでしょう。
 その大元となるのがベーシックインカムという社会制度であり、今ヨーロッパで先行的に実験が行われています。
 人間は今までやりたくないことをやった対価として賃金をもらっていました。やりたいことは趣味なのでお金を払ってしています。ならばやりたくないことを全部機械にさせて稼がせることができれば、人間はただ楽しく遊んでいればよくなります。本当に機械がきちんと富を生んでくれれば人間はそれを消費するだけで済みます。この富がベーシックインカムです。ヨーロッパで始まっている実験では月5~10万円程度ですが、もし全日本規模で行ない、例えば独身は20万円、結婚したら40万円、子供ができたら60万円にするとしたら、AIがどれだけ働けばいいのかは計算できます。大金持ちも貧乏人も居なくなりますが、そう遠くない将来にできないことではないのです。歴史始まって以来ついに人類が嫌なことをしてお金を得ることから解き放たれるとすればこんな良い世界はないでしょう。
 そうなれば必要になるのはAIを管理するセクターです。政治は、人口が増えて競争が激しくなる時代には、有限な資源を巡って喧嘩が起こらないようにするために必要です。しかしこれからは人口が減って個々人のもらい分は増えるので喧嘩は起きにくくなり、政治は外交だけしておけばよくなります。国内ではAIが作ってくれたものを皆で仲良く分けていればいいのです。



留学はインバウンドに

――そういう平準化されていく世界では、出世のために海外留学するようなこともなくなりますね。

 日本は今まで世界的な先進分野を多数保持していましたが、それもそろそろ終わりではないかと見ています。留学というコンセプト自体には国際交流と技術移転の側面がありますが、今後技術移転の側面はなくなっていく可能性があります。そうなると留学生は自分の国にはない娯楽や食べ物を求めて「遊びに来る」人たちになり、留学はまさにインバウンドになるでしょう。
 日本人高校生が減っていますので、大学は留学生というボリュームゾーンをますます獲得していく必要があります。私が授業をしていた最先端大学と中小大学を比較すると、学生の質が全く違い、「社会」があるのは中小大学のほうです。ヒップホップをやっているドレッドヘアの人、夏に甚兵衛を着て下駄で大学に来る人などピンからキリまでさまざまな人がいましたが、それが社会であり、そういう中で留学生も具体的な日本社会で生きていく術を学べます。留学の意味は生活のバリエーションを「経験」して頂くことになっていき、それが結果的に「学び」になっていくでしょう。





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