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留学生の就職支援
第3回 「仕事ができる人」とは? 対談②

栗原由加氏

栗原由加 氏
神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部 教授

黄 仁秀 氏

黄 仁秀 氏
株式会社ソルテック工業人事課長

キーワード

・やるべきことをやっている
・相手の要望を引き出せる
・向上心を持っている

ソルテック工業:1985年創立、大阪市に本社を構える各種プラント設備、環境関連施設設備工事やメンテナンスを行う企業。ベトナムに製造拠点が3工場あり、積極的に外国人人材を採用し、現在は社員120名の約50%が外国籍社員。

 前回、学校と仕事現場とでは、評価ポイントが必ずしも同じではないという話があった。それでは具体的に、会社の中で仕事ができるようになる社員とそうでない社員とはどのような違いがあるか。今回は、栗原氏と外国籍社員を多く抱えるソルテック工業人事課長の黄氏にお話を伺う。(以下、敬称略)

仕事ができる社員とそうでない社員

栗原)御社に入社した神戸学院大学出身のティーさんが、在学中に応募したエッセーコンテストの作品の中で「仲良くしているだけで仕事ができない人はだめ。仕事ができる人が信頼関係を作れる」と書いていて、私もその通りだと思います。実際に、黄課長が多くの外国人社員を見てきて、仕事ができるようになる人とはどんな人でしょうか?

黄)ティーさんが良い例です。採用面接では、事前に用意したと感じる志望動機や回答ではなく、自分はこう思う、こう考えるということを自分の言葉でまっすぐ答える姿勢が評価されて採用されました。
入社後の彼女は、一度教えると次からは自分でしようとします。分からないところだけを上司に聞いてきます。手助けしてもらいながらも、仕事を自分のこととしてどんどん獲得し、前に進もうとします。他部署の社員とのコミュニケーションも一つ一つしっかりこなしていき、今ではほとんど一人でできるようになりました。いい意味で遠慮しないで正面からぶつかっていく姿勢がとても良いです。今では社員皆がティーさんをとても信頼しています。
 
 また、ティーさんとは違うタイプですが、中途で入社したキーム君も良い例です。現場監督をしていますが、日本人と合わせた中でも上位に位置する素晴らしい仕事をする人です。おとなしめで寡黙なタイプですが、だれからも好かれていて、顧客からも「彼をよこしてくれ」と指名されるほどです。現場監督なので、自分の考えを人にきちんと伝える、的確に指示を出し、結果を正確に報告することが必要ですが、それをしっかりやっています。やるべきことをやっているということが、良い仕事をできるポイントだと感じます。

栗原)「やるべきことをやっている」、これは大事なポイントですね。それでは、反対に、仕事があまりできるようにならないケースとしてはどのような例がありますか?

黄) 分からないことを分からないと言えない社員ですね。ひとつずつその場で解決しようとせず、先延ばしにしてしまい、いつまでも解決できない、乗り越えていけない。姿勢の問題ですね。中には、コミュニケーションをとれずにもじもじして、同じ国の人の中にいる社員もいます。仕事はできているかもしれないですが、コミュニケーションが足りないので、あの人は何をしているんだろうと、疑問の目を向けられることがあります。
 
 キーム君と同じく現場監督の勉強をしているベトナム人社員がいました。彼は、仕事を覚えながら、自分で考え勝手に自分の思うやり方で仕事をして、上司に怒られていました。報連相をきちんとできずに自分の考えだけで勝手にやってしまう社員もいます。報連相の必要性を順序だてて説明してもその場しのぎの返事をして、何回も同じ事を繰り返してしまい、こちらの意図が伝わっていないなと感じます。そういう人に限って、仕事が面白くないとか、会社が合わないといって、転職を考えるケースがありますね。本人の姿勢が変わらないと、どこへ行っても同じだと思います。

 別の外国人社員の場合は、以前欧米でアルバイトをした経験があり、そのフレンドリーな雰囲気が好きで、そこと当社を比較して不満に感じていたようです。彼は特に女性の先輩からの指摘、注意されることが耐えられなかったようです。10回くらい個別で話す機会を設けましたが、最後まで、自分が変わろう、溶け込もうとはしませんでした。極端に言えば、周りが自分に合わせるべき、と。

栗原)仕事ができていない時に、仕事の問題に向き合わないで、仕事環境の話にずらしてしまうことがありますね。外国人社員の場合は、文化の違いの話になることもよくあります。ただし、自分の思うとおりにやらせてくれたら~、と言っていても問題は解決しませんね。異文化の中で仕事を進めるのはどういうことか、その一部でも学生時代に経験しておく必要性を感じます。

学生のうちに素地をつくる

黄)具体的には、電話対応、オペレーターの業務は勉強になります。「いかがいたしましょうか」とお客さんと言葉のキャッチボールをしながら、相手を思いやって、困っていることや要望を引き出し、それにこたえる提案をしたり次の購買につなげる、という一連の業務は、なかなか高度なことです。顔が見えないので、声のトーンや速さまで、相手が心地よいと思えるようにする、また指名したいと思ってもらえる対応ができるか。

栗原)ティーさんも「会社に入ってからは人の話をよく聞くようになった、学生の時は自分が話すことが大事だと思っていた」とおっしゃっていました。自分に求められていることを理解して、それにこたえるためには、相手の話をよく聞くことが大切です。
神戸学院大学日本語コースのインターンシップでは、お客様であるインターンシップ先の要望を聞きながら成果物を作ります。最初のうち、学生は、「先生これでいいですか」と何でも教員に聞いてくることが多いです。お客様の要望が何かは、教員ではなくお客様に直接自分で聞くようにと指導していると、少しずつコミュニケーションができるようになります。

黄)インターンシップでは、最初から完璧な成果物を持って来られたら「ああ、そうですか」で終わりますよね。「どうですか」と聞かれて、「ここを直してください」と指示して、そこが次に直っていれば評価しますね。

―学生の気持ちとしては、なるべく近道で早く100点の答えを出したい、という発想ですよね。

栗原)そうだと思います。でも、仕事ができるというのは、教えてくれそうな人に正解を聞いてその通りやるということではなくて、適切なプロセスで、考えながら仕事ができるということです。自分に求められていることをよく理解し、先方からしっかり要望や指示を聞いて、段取りを組んで仕事を進め、上司にきちんと報告しながら進める。うまくいかないことは、相談し調整しながら進めていく、ということです。

黄)仕事の進め方は、社会人になって初めて身につけるのではギャップが大きいので、学生のうちに、その上達の素地を作っておいてもらえると良いと思います。これは日本人社員も同様のことで、このギャップをどのように埋めていくかが企業の課題です。また、外国人社員はしっかりしていると感じる面もあります。最初は大変かもしれませんが、日本人と同じように働く中で成長し、活躍しています。向上心があって、前向きにステップアップしようとする外国人社員の姿勢からは、日本人社員も良い刺激をもらっています。私もそうです。お互い切磋琢磨しながら成長していけたらと思っています。

 日本人と同じように仕事をするのは、大変むずかしいですが、できている人もいます。そのためには何をすればよいか?皆さんはアルバイトでコンビニや飲食店で接客の経験をしていると思いますが、その中には社会で仕事をする大きなヒントがあります。折角のバイトでの経験を無駄にしないようにバイトを一所懸命して、経験を積んでください。 

・留学生の就職支援
 第1回「現場から見える課題」
 第2回 対談① 企業の視点、大学の視点
 第3回 対談②「仕事ができる人」とは?  
 第4回 対談③在留資格の注意点
 第5回 対談④キャリア相談とは
 第6回 対談⑤留学生の情報源
 第7回 対談⑥重視する点は知識ではなく、培ってきたこと
 第8回 対談⑦地域連携の中での留学生支援
 第9回 対談⑧インクルージョンについて考える
 第10回 対談⑨中小企業のマッチング

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