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大規模太陽光発電 


砂漠をエネルギー供給源に  世界の電気をまかなえる発電量


  今月は、砂漠における大規模太陽光発電の研究を進める、東京農工大学の黒川浩助教授にお話をうかがった。


砂漠で太陽光発電

  大規模太陽光発電(VLS―PV)システムは、太陽光をエネルギー源として用い、10メガワットから数ギガワット程度の電力を得ることができるシステムで、既に欧米などでは10メガワットを超えるものが実際に運用されはじめています。われわれはこのシステムを砂漠で稼動させ、ゆくゆくは世界のエネルギー供給をまかなえるようにしようと考えています。地球上で砂漠の占める割合は非常に大きいのですが、調査研究の結果、砂漠でVLS―PVを運用することは経済的にも技術的にも可能であり、世界のエネルギー問題と環境問題の解決、社会経済の発展に大きく貢献できることが明らかになりました。
  例えばモンゴルでは、将来へむけて超大規模太陽光発電の計画立案中で、モンゴル政府が国家再生プロジェクトの一環として初期段階を進めています。モンゴル南東地域に広がるゴビ砂漠は莫大なエネルギー量を秘めていますので、そこに鉄道に沿った形で発電設備を建設し、中国その他にも電力を供給しようというのです。
  われわれはゴビ砂漠での過去5年間にわたる研究の中で、衛星写真を使って、VLS―PVが設置できる場所の調査を行いました。砂丘、山や水があるところを避けていっても、設置できる場所の面積は同地域の40%に上り、この面積だけで、世界中の電気をほとんどまかなえるような発電量が見込まれます。世界の6大砂漠を合わせると、トータルで年間42万テラワット時が得られる計算となり、これは世界中の一次エネルギー(石油、天然ガス、石炭等)の供給量とほとんど同じレベルになります。
  既に、モンゴルの南の国境に近いノヨンソムという地域には、200キロワットの太陽光発電システムが稼動しており、2000人の人々が昼間から電気が使えるという新しい生活に入っています。われわれは将来、発電量を100万キロワットに拡大していきたいと考えており、そのための研究を東京農工大学と産業技術総合研究所、モンゴル国立大学などと共同で行っているところです。
  VLS―PVはまた、大気汚染をなくし、地域の活性化と雇用の創出をもたらします。例えば同地域で太陽電池モジュール工場を運転すれば年に25700人の雇用が見込まれ、モジュールの交換時期以降は生産や売電で利益が発生するようになり、45年後からは安定領域に入るといった長期的に持続可能なシナリオを提唱しています。
  また、砂漠地域における電気を使った農業の可能性も追求しています。水ポンプを使った灌漑農業を行い、土地が劣化しないように、完全に溶け込んでいった水から塩分を完全に取り除いてしまうシステムを提案していますが、これは太陽電池を使えば十分可能だという見解に達しています。これらを総合的に一つのシステムにまとめ上げていけば、周辺環境を非常に持続的なものにすることができます。さらに、経済的にペイするように作り上げることで、ノヨンソムが完全に自立してレベルの高い生活が営めるようになることも目指しており、そのための事前調査をモンゴルで行っているところです。


砂漠は将来の有益な資源

  これらの国際共同研究はIEA(国際エネルギー機関)のもとで進めてきたもので、14カ国の46名が10年間共に協力し合った結果様々な知見を得ることができました。「実現しない夢かもしれない。しかし…」という思いで研究に没頭してきましたが、気持ちを長く持ってじっと待っていくうちに、世の中のほうがだんだん動いてきて現実味を帯びてきたのです。今、「砂漠からのエネルギー」は決して夢物語ではないと確信するに至っています。今後砂漠は、持続可能なエネルギーを生み出す広大で有益な将来の資源として再評価されるようになるでしょう。
  石油や石炭など従来のエネルギーはとかく戦争の種になりやすく、発電に化石燃料を使用する以上は持続可能性はありません。化石燃料の産出国がエネルギー需要をリードしていく発電のあり方には再考が必要です。また、資源自体もいずれ枯渇しますので、何らかの行動を取らなければなりません。われわれは将来世代の人々が生きる世界がどうなるかを考えていく必要があります。先進国と後進国がこれまでにないほど協力し、世界中の人々が太陽光や水素などの再生エネルギーの使用について考えるようにならなければ、世界は変わりません。今後この研究成果を知った人々が世界中に広がってプロジェクトを組み立てていけるよう、サポートすることがわれわれの役目であると考えています。