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海水淡水化と排水再生利用 


海水や排水から生活用水を製造  膜技術による造水で世界をリード


 今月は、海水淡水化や排水再生などの技術開発を進める、財団法人造水促進センターの平井光芳氏と秋谷鷹二氏にお話を伺った。

使える水は0・8%

――世界の水資源をめぐる現状について。
平井:水は人間の生存に欠かせない重要な資源です。地球上の水の約97%は海水であり、淡水は約3%、河川や地下水など実際に使える水はわずか0・8%程度といわれています。1995年に世界銀行副総裁だったイスマル・セラゲルディン氏は、「21世紀は水をめぐる紛争の世紀になってしまうだろう」と語りました。現在31カ国が深刻な水不足の状況にあり、安全な水にアクセスできない人は14億人以上、水に関係した病気にかかる人が毎年12億人以上いるといわれています。もし海水から塩分を除いて安全な飲料水や生活用水をつくることができれば、少なくとも沿岸部における水不足の問題は解決できると考えられます。そこでわれわれは、逆浸透法、蒸発法などの海水淡水化技術の開発と普及促進に取り組んでいます。
  逆浸透法(RO法)はエネルギー消費が最も少ない方法として、現在主流となりつつあります。これは「半透膜」を使って海水から水を絞り出す方法です。わかりやすく言うと、容器を半透膜で仕切って片側に真水を、片側に海水を入れると、濃度が同じになろうとして真水が海水側に染み出してきます。これは見方を変えれば、真水のほうが圧力が高いので海水側に染み出してくるとも解釈できますので、海水に圧力をかければ均衡状態を保つことができます。さらに海水に高圧(50気圧前後)をかければ、逆に海水から真水を絞り出すことができるのです。
  日本は1960年代から膜技術の開発を始め、現在、海水淡水化プラントの製造に関しては世界一の技術を持っています。海水から飲用水をつくるには塩分を99%以上通さないタイトな膜を使います。この膜でさらに水道水を処理すれば、半導体装置の洗浄等に使う、不純物を含まない「超純水」に近いものもつくることができます。現在、超純水製造ビジネスで日本はトップレベルにあり、世界の電子産業を支えています。日本の「お家芸」ともいえる膜技術が、世界中で活躍しているのです。
秋谷:海水淡水化にはそのほか蒸発法もあり、日本は「多段フラッシュ」という方式を開発し、この方法で世界をリードしました。エネルギー資源に余裕のある中東の産油国では多く採用されており、飲用水への利用が進んでいます。いっぽうの逆浸透膜は東レ、東洋紡、日東電工の日本の3社が世界で大きなシェアを持っており、日本政府も今後5年間で新しい膜を開発して、淡水の生産にかかる電力をさらに半減しようという計画をスタートさせています。
平井:水資源の確保においては、産業排水や生活排水の再生も重要な課題です。今後は排水を資源として再利用する循環を築いていかなければなりません。つまり水のリサイクルです。
  われわれは、一度使用したビル排水を処理して、水洗便所や散水等に再利用するシステムを開発しました。いま東京や福岡では、一定以上の床面積のビルを建てる際には、条例で排水の再生利用設備を付けなければならないことになっています。
  さらに、膜処理による下水再生にも取り組んでいます。排水処理に膜を使う概念を世界で初めて取り入れて実現したのが日本です。生活系排水は、有機物が一定以上の濃度になると環境に悪影響をおよぼします。そこで新しいバイオテクノロジーを応用し、再生水だけでなくメタンガスをも製造・回収して、資源を最大限有効に活用することができるシステムを開発してきました。
秋谷:石油と同様、資源としての水を得ようとすればお金がかかるのです。川には資源が流れていますが、それを使って汚いまま流せばもう資源ではなくなります。長い河川の場合は水が下流に行くまでに何回も使われることを考えると、汚してそのまま流すという形自体を改善していく必要があるのです。
  例えばEUでは、ドナウ川はいくつもの国を流れる国際河川ですから、下流の国では水質汚染が深刻です。上流の国から順次、廃水処理施設の導入を進めていくことが重要です。