権 赫旭 氏
(日本大学 経済学部 准教授)
日本語は「守りの障壁」 大学国際化は体制作りが先決
――日本の留学生受け入れの課題点は。
留学生を受け入れる場合は彼らが住む部屋が必要ですが、寮を持っている大学は多くありません。従来の政策では、留学生に奨学金を与えて民間アパートを借りられるようにしたわけですが、4年間安価に生活できる寮があればそれほど多く支給する必要もないのです。施設が未整備のまま受け入れ政策が先に打ち出されていますが、施設への投資が先ではないでしょうか。
例えば私が学んだ一橋大学の周囲は大学街になっており、多くの学生が大学周辺に住んでいるので、大学と地域と行政とが連携して留学生の生活を支える取り組みが行われていました。しかし都心型の大学では周辺の賃料が高いので学生の居所はバラバラで、大学と連携して何かするのは非常に難しいです。欧米のように、学内に寮があって学内で完結するキャンパスは作りにくく、その大学独自の文化というものをあまり持っていないのではないでしょうか。クラスメートで知っているのは数人という人もいると思います。住まいの問題は留学生の受け入れで一番大きな問題といっていいと思います。
学生支援に関しては、特に外国人留学生のためだけの支援というものは必要ないと思います。日本人と留学生という線引きをした途端に国際化の意味がなくなってしまいます。日本人に刺激を与えるために外国人留学生と切磋琢磨させるよりも、日本が今まで蓄積してきた文化や知識などを、出身国・血筋・肌の色に関係なく学んでもらうということが重要です。その結果、その人が日本に住みたいと思えば住めばいいし、努力しても力を発揮できない場だと思えば世界に出ればいいのです。
――カリキュラムの英語化など大学教育の国際化についてはどう考えますか。
大学の国際化とはつまり、世界の中で大学がいかに寄与できるかということです。知識は国境を越えます。最近では、研究成果はすぐ翻訳されるので、ネットワークにアクセスさえできればどの地域に行ってもすぐ情報を共有できます。日本のためだけの教育というものはありえません。もっと広い観点で教育するべきです。
日本では一部の大学を除く大部分の大学が日本語という障壁の中で守られ、国際的な競争から免れています。日本語という守りの障壁を全てなくせば、日本の大学は本当の意味で強くなるのではないでしょうか。
しかし、教員の多くは、入試関係の仕事など教務以外のさまざまな仕事を抱えていますので、たとえ英語で講義できる人であってもより負担の少ない日本語で教えるようになりがちです。雑務を減らさない限り講義の英語化は難しいでしょう。大学の全体的な体制作りが先決であり、組織全体で目指す方向が決まった上で努力していかなければなりません。
外国人教員の誘致に関していえば、日本の国立大学の教員の給与水準は諸外国と比較して低いです。また、学生数に対して教員数が多すぎるので、人員を調整して優秀な教員に資金を配分するべきです。国際水準の教育ができるためには、施設と教員双方のレベルを確保する必要があると思います。
こうした大掛かりな教育改革を日本の全大学で行うのは大きな負担が伴います。できる大学から世界に出て行き、徐々に国際標準に近い教育レベルが達成できれば、その下の大学も影響を受けると思います。
一方、文学部や法学部など、日本語や日本の制度に守られている学部がまだありますが、そういう学部では、日本の社会制度や文学などを世界に積極的に発信する努力が必要でしょう。日本固有の強みの発信にこそもっと投資していくべきだと思います。
――大学だけでなく日本社会全体の国際化も不可欠ですね。
そのとおりです。卒業後の人材活用についても、国籍に関係なく、努力して競争に勝った人が評価され、活躍できるような場が提供されることが国際化というものでしょう。そもそも、日本で評価されない留学生は母国に帰っても活躍できるとは思えませんし、海外で評価されない日本人は帰ってきても活躍できるとは思えません。日本社会が世界に開かれて、公平な評価システムが整備され、日本人でも外国人でも努力に応じて活躍の場が提供される国であることを世界に示せば、30万人にとどまらずもっと多くの人が来るのではないでしょうか。
Heog Ug Kwon
ソウル大学国際経済研究科修了。1997年来日。一橋大学経済研究科修士課程、博士課程修了。2003年一橋大学経済研究科助手、2004年一橋大学経済研究所COE非常勤研究員。2004年経済学博士取得。2005年一橋大学経済研究所専任講師、2006年から現職。研究テーマは産業組織論、技術経済学。
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