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鈴木 洋子氏 
(昭和女子大学大学院文学研究科 特命教授) 


質の高い留学生増加が最も有益


意欲ある留学生に4年間で日本語習得を


――日本の留学生受け入れの課題は何でしょうか。

 近年、政府が留学生の質的向上を目標に掲げているにも拘らず、質より量を優先する考えが強くなっているように感じます。その背景には大学の入学定員割れの問題があります。入学者が減らないよう補填的な意味合いで留学生を受け入れる大学が一部存在しており、合格基準を下げて留学生を入学させています。留学生の受け入れで政府から大学に補助金(運営費)が支給される制度があるため、補助金を目当てにしているのです。このような場合、大学を「学習する場」ではなく遊びあるいはアルバイトを優先するなど勉学意欲が弱い留学生が入学するケースが見受けられます。生き残りという死活問題のために目先の利益ばかりに捉われてしまうと、結果的に大学の質が低下し日本留学全体の印象も悪くなってしまうでしょう。質の良い留学生数を増やすことが、最終的には最も有益な手段になるはずです。


――日本の留学生受け入れの課題は何でしょうか。

 大きく見ると、これまで多数派だった中国・韓国からの留学生が減少傾向にあり、ベトナム、ネパール、タイ、マレーシアなど東南アジアからの留学生が増加してきています。カンボジアやミャンマー、中東諸国からも増えつつあるようです。
 
 本学にサウジアラビアからの留学生がいますが、彼女は「衣服など日本独特のセンスを学びたい」と生活科学部がある本学を選んだそうです。繊細な日本的センスは衣服、和食などに見られ、世界に浸透している日本文化を背景に、日本にしか提供できない魅力ある留学プログラムがより求められると思います。
 
 中東圏の学生にとって日本はある種憧れの国ですが、日本は言語、文化が大きく異なるため、日本で学ぶ中東圏の留学生は総数から見るとわずかです。そこで、海外におけるEラーニングでの日本語教育も今後の鍵になっていくだろうと考えています。そして、イスラム圏の学生を受け入れるためには、お祈りのスペース、ハラルフード・断食への配慮が必要です。本学でも、サウジアラビア人学生のためにお祈りのためのスペースを設置しました。


――今後日本の大学が目指すべきグローバル化の方向性とは。

 よりグローバルスタンダードに近づけることです。具体的に言えば、入学条件に求める日本語能力NIの削除、9月入学の拡大、大学院の英語コースの増加です。ほとんどの大学が、学部入学時に日本語能力試験N1を留学生に求めますが、そのレベルに到達するには一定期間の日本語学習期間と環境が必要であり、先ほどご説明した中東など非漢字圏の学生にはあまりにもハードルが高いのです。研究主体の大学院生の場合、世界の共通言語は英語ですから特に理科系では英語化は必然ですが、学部課程は教育主体で4年間あります。4年の間に、本人の努力と教員・日本人学生からのサポートがあれば日本語は習得できるはずです。そのため、単に入学要件緩和で留学生の質の低下を促すということではなく、本当に日本で学びたいという意欲と能力を評価して入学させ、大学在学中に日本語を習得・運用できるような体制を構築することが鍵になります。卒業後、日本留学の経験を活かしてのキャリアを考慮すると日本語は欠かせません。このように留学生の就職も視野に入れた本気の支援をしない限り、日本の大学の留学生受け入れはそれほど大きく発展しないと思いますが、逆に本気で取り組めば大きな可能性があるということです。


すずき ようこ
お茶の水女子大学で学士号、東京大学総合文化研究科で修士号、明海大学応用言語学研究科で博士号を取得。ジョンズホプキンス大学(米国)、埼玉大学等で講師、武蔵野大学大学院で教授を歴任。2013年から現職。著書に『日本における外国人留学生と留学生教育』など。


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