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洪 政國 氏 
(東京大学国際連携本部 特任教授) 


定着は人生に関わる問題  社会制度がネックにも

――外国人留学生の日本への定着について。
  定着はその人の人生にかかわる問題であり、定着に至るまでにはいくつかの段階があります。
  第一段階の留学においては、自分が良い大学に来たのか、そこにいたことが自分の人生のプラスになるのかが大きな関心事です。その意味で若い留学生には、勉学や生活上の当面の問題解決以前にむしろメンタルヘルス、人間としての全体性を意識した支援が必要なのです。
  第二段階は就職で、選んだ職種に就職できるかどうかが問題となります。企業や業界を知ろうとインターンシップに参加する留学生もいますが、一番効果的なのは実際に就職している先輩の事例を知ることです。日本に残って活躍している人は、外国人の立場で自分自身を内省し、学習して困難を乗り越えた人が多く、これを日本人が心底納得して指導することは難しいのです。成功した先輩の事例に触れ、考えるチャンスを作ってあげることが第二段階の成功には必要です。
  第三段階は就職後5年ほどたって訪れます。その時自分の思うように実力を発揮し自己実現できているか、それに伴って生活が向上し家族が満足して生活しているかが問題となります。実力のある人ほど結果を出しており次のステップを目指します。その際に最大のネックになりうるのが各種の社会制度です。健康保険や年金などに関して母国と社会保障協定が結ばれているか。今いる会社に残る場合、公平で透明性のある機会均等が制度化されており、新たなチャンスを与えてくれるのか。黙っていても母国からオファーが来たり、米国などの高待遇の環境に移ったりする選択肢が現れます。
  留学生が留学先に日本を選んでくれたのであれば少なくとも大学の実力や魅力はあったのだと考えられますが、彼らが人生で非常に重要な30~40代の時期を迎えて以後も日本社会に定着するかは、よほど政府が本腰を入れて取り組んでいかなければ、短期間いて帰るだけの人が多くなってしまうでしょう。実際には将来の具体的なロードマップを用意して来る人は少数で、とりあえず来日し就職して母国に戻ろうと考えている人が多いです。その人たちが第二・第三段階に入って日本を実力と魅力で選んでくれるのか。今後日本政府が彼らの立場に立って、彼らの言葉に親身になって耳を傾けながら取り組んでいくかどうかにそれはかかっています。
  外国人の定着を考えることは、日本の魅力を高め、高級人材を社会全体で活用していくための受け皿作りにつながります。真のダイバーシティを実現するためには外国人を特別扱いせず、対等な仲間としてとらえ、日本社会のためにどう貢献できるのか日本社会全体の中で共に考えていくことが大切なのではないでしょうか。


Jung-Kook Hong
静岡県生まれの在日韓国人。75年東北大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士。韓国農村振興庁、(財)高麗人参研究所、梨花女子大学を経て、1981~2008年まで日本IBM東京基礎研究所と大和研究所で勤務。Emerging Business Opportunityの事業開発の部長をそれぞれ務め、08年4月から現職。


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