Top向学新聞内外の視点サンドゥー・アダルシュ 氏


サンドゥー・アダルシュ 氏 
(東京工業大学 量子ナノエレクトロニクス研究センター准教授) 


寮生活自体が一つの文化  OBアドバイザーの制度化を

 ――「30万人計画」実現のための課題点とは。
  留学生の「住む場所」と「日本人学生との交流の場」が大きなポイントになってくると思います。私は約20年前に日本に留学しましたが、そのときまず感じたのが欧米と日本の学生寮に対する捉え方の違いです。今は違うかもしれませんが、私が当時日本で住んだ寮はただ住むだけの場所という印象を受けました。欧米では学生が寮で生活するのは当然ですが、ただ生活するだけでなくユニオンというものをつくっています。日本ではユニオンいうと学生運動のようなものを思い浮かべるかもしれませんが、欧米では学生が自分たちでお金を集め、コンサートのために人を呼んだり、バーを入れたりしながら自由に交流することができる場をつくったりするものです。つまり学生どうしが交わり共に文化を構築する場所が寮なのであり、寮生活自体が一つの文化なのです。留学生達にとって勉強の困難さはそれほど重大な問題ではありません。それよりもむしろ勉強以外の面で、日本に来て良かった、楽しかったと留学生に思ってもらえるかどうかが大切なのです。だから寮を提供する際には、その場が何のためにあるのか、学生達がそこで生活することで何を得てほしいのかをしっかり考える必要があると思います。今日本国内の国立・私立大学などを調べると、留学生が希望すれば入居できる寮を完備しているところは少なく、あっても20人、30人規模の小さなものが多いようです。日本の大学にもっと規模が大きく学生達が交われる工夫がなされている学生寮などがあるともっと欧米の留学生達も日本留学を選びやすくなるのではないでしょうか。
  事実、留学生たちから「日本人学生と深く交わる場がない」という声をよく聞きます。日本では留学生寮と日本人学生の寮を分けているところが多く、これは留学生が日本人学生と深い交わりを持てない要因の一つとなっています。私は母国での学部生時代は寮で過ごしたのですが、思い出すととても楽しいものでした。違う国籍の友人、違う学科の友人、大学の教授達、勉強のこと世の中のこと個人の悩みなどたくさん意見をぶつけあい良い刺激を受けました。寮生活では、多種多様なタイプの人たちとの交わりの中で、人間的に成長することができると思うのです。ですから留学生を日本人学生と混住させることは非常に大切です。そうすれば留学生の日本文化や日本人に対する理解を深めることが可能になるだけでなく、日本人学生の成長の場にもなると思います。
 私は大学院で、英語による論文執筆とプレゼンテーションの方法を指導する授業を担当しています。もとは日本人向けに開講したのですが、今では受講者の大半は留学生になっています。彼らは授業の質問に留まらず生活上の色々な問題について質問してきます。つまり、自分達と同じ境遇を通過し、乗り越えた先輩のアドバイスを求めているわけです。しかし、大学の留学生担当者の多くは日本人、しかも事務の方なので、適切なアドバイスを与えることはなかなか難しいと思います。たとえば今後、留学生OBによるアドバイザー制度を創設し、全国的な講演会を行ったり、生活上の問題への対応事例集などを整備したりすれば、留学生にとって非常に役立つのではないかと思います。


Adarsh Sandhu
英国籍。1985年マンチェスター大学(英国)にて博士号取得後、来日。東京大学、富士通研究所、ケンブリッジ大学(キャベンディッシュ研究所)を経て、2002年より現職。Nature Nanotechnology誌編集顧問。