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ペマ・ギャルポ 氏 
(桐蔭横浜大学法学部教授) 


留学生が勉強できる環境の整備を  日本人は宗教への理解必要

 ――留学生受け入れにおける日本の課題とは。
 日本の大学に留学するにはまず日本語の勉強からはじめなければなりませんが、日本語学校の中には留学生から直接入学願書を受け付けず、斡旋業者を通して受け付けるところもあります。しかし斡旋業者の中には中間搾取を行うブローカーがいるため、留学前に借金を抱えなければならないような事態が起こります。この問題に対しては早急に手を打たなければなりません。
 来日後に一人の留学生が生活するためには月に15万円程度はかかると思いますが、時給800円のアルバイトでそれを稼ぐとすれば週100時間以上は働かなければなりません。現行のビザ制度では週28時間までとなっていますが、その程度では実際生活できないのです。加えて生活費や授業料も払い、日本に来る前に親族などから借りたお金も返さなければならないとすれば、勉強したくても勉強できないでしょう。留学生のアルバイトに関しては、法務省ももう少し明確な方針を固めなければなりません。
 また、日本の経営者の方々に言いたいのですが、支援といっても特に奨学金を出すという発想以外にも、「勉強させることを前提とした働く場」を提供してあげることが大切だと思います。生活に必要な稼ぎや勉強時間等を考慮して、それ以上の長時間労働はさせず、かつ業務にも影響が出ないよう他の留学生にシフトするといった、もっと透明性のあるシステムを作り上げていくべきです。留学生の雇用は一つの国際交流、社会奉仕ととらえて取り組む必要があります。そうすれば留学生も帰った時に「自分たちが勉強できたのはそのおかげだ」と思えるでしょう。
 私の第一のお願いは、一人でも多くの留学生に来て欲しいとは思いますが、日本側の受け入れ体制がまだ全く不十分ですので、もう少し勉強できる環境を整備するよう、国や関係者の方に心がけていただきたいということです。
 また日本社会および日本人が今後世界各国からさらに多くの留学生や労働者を入れていくにあたっては、宗教というものをもっとよく理解していかなければなりません。例えばイスラム教の社員が「ちょっと祈ってきます」と出ていこうとしても、日本人の社長が「仕事中はダメだ!」というようでは、その人の信仰の自由がなくなってしまいます。日本人は信仰について、交通安全祈願のお守りを500円程度のお金で買うような単純なものと考えているのかもしれませんが、宗教とはすなわち信仰の問題であり、各自が己の信仰する神を崇めているのです。日本人はそれに対する免疫ができていないので宗教を傷つけるようなことを平気でするし、相手が子供のときから従っていることを一つの価値観として認めず、意味も考えないで政教分離を口にしたりします。政治と宗教抜きの社会などは世界に出てみればほとんどないと思うのです。

――日本人は、異なる価値観や文化に対する認識をさらに深めていく必要がありますね。
 留学生はある意味では出前の異文化だと思うのです。わざわざ外国まで行かなくても、まずそばにいる留学生と交流をすれば、お互いに学ぶところはたくさんあるのです。また、留学生も同国人どうしでかたまって母国語だけでしゃべっているようでは、わざわざ日本まで来る必要がないと思います。その意味で日本人は留学生を特別扱いするべきではありません。特別扱いすることでかえって彼らが孤立する面もあるのです。もっと積極的に日本人の活動に巻き込んでいき、青春を一緒に過ごしていこうとすることが大切だと思います。


ペマ・ギャルポ 
1953年チベット・カム地方生まれ。59年インドに亡命、65年来日。亜細亜大学法学部卒。上智大学大学院、東京外国語大学アジア・アフリ
カ語学研究所を経て、99年モンゴル国立大学にて政治学博士号を取得。国際情勢コメンテーター。チベット文化研究所所長。