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呉 在恒 氏 
(明治大学国際日本学部准教授) 


卒業後の定着踏まえた政策を  国全体での支援が必要

 ――「日本の強み」とは何でしょうか。
 ものづくりに関していえば、日本企業はチームワークによる問題解決能力に非常に優れており、欧米企業に比べてより少ない人数と短い期間で製品を開発することができます。このような強さは長期的に幅広い職務経験と視野をもった人材や、大部屋でわいわいしながら議論して問題を共有し解決していくような組織カルチャーがないとなかなか難しいです。たとえば、アメリカ企業では、業務を詳細に分けて任せる分業型の組織が多く、そこで働く人々もその細分化された職務の価値で給料をもらいます。このような組織は、個人が専門家として力を発揮しやすい反面、日本のようなチームワーク型問題解決は苦手です。日米企業はそれぞれ、得意・不得意なやり方があるといえるでしょう。
 グローバル時代は、多くの選択肢の中から自分にとって何がいいか、どの国籍の企業で働きたいかを、以前の時代に比べて選択できる時代でもあります。日本のやり方や価値観が良いといって日本を選んだ人の中には、当然定住する人も出てくるでしょう。したがって留学生政策にも、卒業生の定着まで踏まえた長期的な見通しが必要です。
 仮に、30万人留学生計画が達成され、そのうち卒業生が毎年8万人程出て、4万人が日本企業に就職するようになるとすれば、彼らが定住したくなったときに、彼らにとって日本は住みやすい国といえるかどうかを検討する必要があるでしょう。たとえば、今の制度では、日本で20年働いても、仕事が変わって母国に帰れば日本で働いた間の年金はもらえません。これは国の間で話し合うべき問題でしょう。また、最近日本を訪れる外国人はみな空港での入国審査のとき指紋と写真を取られるようになりました。法務省がテロや不法滞在などの対策のために取った措置と思われますが、これは観光立国を目指す日本に対して、外国人に良い印象は与えないでしょう。日本の縦割り行政の問題がここにも関係していると思います。
 次のような経験もありました。98年に通貨危機が起こり、文科省は仕送りでやりくりしていた私費留学生に一律5~10万円を支給する支援策を打ち出しました。ところが、その途端に、大学は、これまで授業料免除を受けていたオーバードクターに対して、その免除を打ち切ると通知をしました。当時、院生だった私も「なぜ今の時期に、このように矛盾した措置が出されるのか」と甚だ疑問に思ったことがあります。
 留学生30万計画を達成するためには、国全体として留学生を支援するトータルなパッケージをつくり、産官学一体で取り組む必要があります。良い人材を世界中から集めるための入り口(受入れ)の対策は無論、大学での教育プログラムや留学生宿舎などの整備、出口(卒業後)での支援策など、課題は山積していると思います。


お じぇふぉん  
1963年韓国生まれ。89年ソウル大学校社会科学大学経済学科卒、99年東京大学大学院経済学研究科修了。経済学博士。04年東京大学大学院経済学研究科21世紀COEものづくり経営研究センター特任助教授、08年より現職。