Top向学新聞>内外の視点>容 應萸 氏


容 應萸 氏 
(亜細亜大学大学院アジア・国際経営戦略研究科教授) 


日本人は海外に目を向けよ  国際交流は一方通行ではない

 ――30万人計画実現の課題とは。
 様々な現実問題が残されています。例えばビザについては、審査がどのように行われているのかが不明です。あるカテゴリー・地域の留学生に対して特に審査が厳しく行われる例もいまだにあり、入管側が本気で30万人を受け入れる気があるのか疑問に思います。
 また、宿舎の問題もあります。大学の留学生寮が遠方にあり、通学に一時間かかる例もあります。米国の大学では寮がキャンパス内にあるので通学に時間がかかることはありません。夜は様々な行事があり絶えず友人との付き合いがあります。いわゆる「学園生活」が存在しているのです。今の日本の大学でこの学園生活があまり見られないことは一つの問題です。多くの学生は授業が終わればすぐ帰ってしまうので、留学生は日本人の友人を作る機会があまりありません。
 30万人計画では、地域との連携による生活支援や、就職の受け皿の拡大など、社会と一体となった受け入れの推進が掲げられています。しかし、多くの有能な外国人が日本で働き永住していくようになるというビジョンを、日本社会全体が受け入れていけるでしょうか。私のように長く地域社会に定着していても時々「外国人」として見られる場合はあるのです。
 日本社会はもっとオープンになっていく必要があると思います。そしてさらに、日本人がもっと海外に目を向けていくことが必要だと思います。国際交流は一方通行ではないはずです。
 例えば交換留学の現状は、来日する留学生が増える一方で、海外留学しようとする日本人は増えていません。今の日本の若者には海外への興味自体があまりなく、意識が内向きなように見えます。ゲーム世代で友達作りが下手で、自分の家がいちばんいいという人が増えています。交換留学は受け入れ側と送り出し側の温度が対等でなければなりません。漫画やゲームなどをきっかけとして日本に関心を持ち、留学しに来るアジアの人々が多くても、日本の学生がアジアの国々に無関心なようでは、交流の拡大は難しいでしょう。
 政府が今進めようとしている「グローバル30」計画についても、一部の大学に留学生が集中する結果を招くのであればよいこととは思えません。このまま大学への優遇措置の格差が広がり続ければ留学生支援の格差も広がり、たとえ30万人が達成されても数の多さが逆効果になってしまう可能性すらあります。少なくとも留学生がいやな思いをして帰ったり、日本人が「外国人はとんでもない人たちだ」と思ったりすることのないようにするべきです。そのうえで、日本の現代文化と伝統文化の両面の魅力に触れ、本当に日本に来てよかった、といってもらえるような環境を社会全体で整えていく必要があると思います。


よん いぇんゆ 
 香港出身。米国コロンビア大学文学修士。東京大学大学院社会学研究科国際関係論専門課程博士課程修了、社会学博士(東京大学)。国立シンガポール大学専任講師、Harvard-Yenching Institute Associate等を経て、亜細亜大学経営学部教授、現職。