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王 曙光 氏 
(拓殖大学国際開発学部教授) 


留学生アシスタント制度を実施  学生が人間的に大きく成長

 ――「国際貢献の一環として留学生を受け入れる」というスタンスについてどうお考えですか。
 国際貢献といって途上国に「お金を出してやる」「良いことをしてあげる」という姿勢では、国際社会から歓迎されませんし、留学生には「日本の政府に感謝しなければならない」と教え込んでいるようなものです。日本留学は苦労も多いですから、これでは彼らは感謝どころか反日のイメージを抱いて帰ってしまう可能性もあります。留学生が苦難を乗り越え、結果として「日本留学はよかった」という収穫を持って帰国できるように、政府も留学生も共に努力する姿勢が必要です。そのような「国際交流事業」として日本留学を捉える必要があると思います。
 具体的な取り組みの一例として、本学の国際開発学部で5年前から行われている留学生アシスタント制度があります。国際開発学部は定員300名中の70名が留学生であり、彼らをサポートしようと教職員自らが主体的に立ち上がったのです。その結果、専属の教員と職員を配備した留学生相談室を学部内に設置するに至りました。さらに、日本人学生と留学生の上級生のうち希望する者が留学生のアシスタントとなり、一年間新入生の面倒を見るという制度を発足させたのですが、これが学生たちに非常に大きな教育的効果をもたらしています。
 私は今、本学部の留学生教育委員長を務めていますが、委員には常々「留学生に感謝してほしい、という気持ちが少しでもあれば失格だ」、アシスタントには「人を助けてやるというつもりでするのではいけない」と言い続けてきています。留学生とうまく心の交流ができることが大きな目標であり、それでこそ心の幸せを感じ、アシスタント自身のためにもなるわけです。困っている人を助けるということは実は人間として一番難しいことであり、勉強しながらの片手間では助けられません。用事があるといって途中で留学生が来なかったり、喧嘩別れになることさえあります。それらを乗り越えて最後まで続けるとなると、普通の授業よりも大変です。だからこそ一年間やり通した時の達成感は大きく、振り返ってみると人間的に大きく成長しているというのです。人間形成の上でこれは一番いい教科書であり教室です。アシスタントたちが卒業後にも留学生相談室に顔を出し、「ここで私は人と一緒に成長するということを覚えた」と言うのを聞くと、これこそ本当の教育だと思うのです。
 本学部には国際協力という科目がありますが、アシスタントを一年間最後までうまく務めた人には、その科目で10点加点するということを教授会で決定しています。教科書で勉強するだけでなく、国際協力を一年実践し続けた人たちなのですから評価されて当然で、10点加点でも少ないくらいです。

――相談室で一年間交流した仲というのは、その後も続くのではないですか。
 国際開発学部では2年次にゼミを選択するのですが、アシスタントが自分のゼミを紹介し、留学生がそのゼミに入るきっかけになったりします。また、ある中国人留学生は、アシスタントの日本人を夏休みに北京に招待しました。すると留学生の親が一年間面倒を見てもらったといって感謝し、家族との交流ができたということです。そのように、みなの心の中に大きな収穫が実ってきています。
 われわれはそれほどお金をかけていませんが、人々の「心に残る」ような事業を行っています。何十億円ものODAを供与するよりも、むしろこういった事業を行うほうが実際の効果は大きいのではないでしょうか。


おう・しょこう
 1954年中国生まれ。1982年山東師範大学外国語学部日本語科卒。1989年東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。帝京大学文学部講師、静岡産業大学経営学部助教授などを経て、2000年現職。専門は中国産業論。