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胥 鵬 氏 
(法政大学経済学部教授) 


奨学金のあり方が重要  卒業後就職できるシステムの整備を

 「外国人にとって日系企業には昇進のガラスの壁が存在する」という話を耳にすることがあります。しかしそれが本当かどうか、良く考えてみなければなりません。例えば日本人が課長になる平均的な年齢は30代後半ですが、その年代の全員が課長になるわけではありません。まず日本人が出世する割合を正確に見きわめる必要があります。その上で、日本人と外国人との間に明らかな待遇の差があるのか、米国ならば外国人が出世できるのかどうか。日本より米国のほうが魅力的だとすればどの要素がそうなのか。こういった要素を詳細に調べてみる必要があるでしょう。
 私自身は、「ガラスの壁」という話には一種の愚痴が含まれているのではないかと見ています。米国でも管理職に上り詰める人は少なく、競争の結果としてポストが与えられるわけですから、誰もがなれるわけではありません。その意味では米国企業にもガラスの壁は存在しているといえるでしょう。
 しかし日本と米国とで、高度人材の受け入れに関する考え方が違っていることは明らかです。米国は大学院を中心に人材を受け入れており、最初に統一基準によるスクリーニングをクリアした人だけを受け入れます。そしてTA・RAの採用や奨学金の支給が決定した人だけにビザを発給します。卒業後には、PhDを取得した多くのアジア人材がシリコンバレーなどで専門家として活躍しています。
 このような米国のシステムは、日本が見習うべきモデルに十分なりうると考えます。優秀な人材全員に奨学金を用意し、アルバイトせず勉学に集中できる仕組みを整えることが重要であるのは明らかです。しかし現状としては優秀な人が奨学金を支給されるとは限らず、優秀でなくても支給される人がいます。そのため、支給されている人が感謝せず、支給されなかった人が文句を言うケースも見られます。
 米国では勉強できない人はすぐドロップアウトして卒業できないいっぽう、PhD取得のための基準も明確に定められています。日本はこのようなシステムの整備がまだ不十分です。大学で一生懸命勉強して成績を上げることができれば卒業後には良い職に就くことができるというシステムを、早急に作らなければなりません。そのため、最初の入り口である奨学金のあり方が重要となるのです。留学生を受け入れる以上はTAやRAなどの奨学金を月に15万円以上確保していなければなりません。そもそも奨学金自体が少ないことは大きな問題です。
 また、企業に目を転ずれば、「日本企業は出世が遅い」という外国人の話をよく耳にします。これは一般的な事実でしょう。ある外資系銀行の頭取は40代ですが、日本では少なくとも50代以上か60代が当たり前です。外国人にとっては一種の我慢比べです。人間の能力のピークである40代前後で課長程度のポジションしか与えられないのでは、日本がトップレベルの人材を多く確保
していくことは難しいでしょう。
 昨今、伝統的な日本企業の良さがどんどん失われてきています。高卒でもそこそこのメーカーで一生勤めれば一生が保障され、子供を大学に行かせられて家族がみな幸せになれるというすばらしい時代がありましたが、これを続けられるのは一部企業のみになり、チームの成果がその構成員全員の幸せにつながるという日本型組織の優れた前提は崩れてきています。我慢すれば将来が保証される時代は過ぎ去ったので、当然人々は我慢できなくなり、目先の成果に応じて出世が決まらなければやる気をなくしてしまうようになりました。
 こうして成果主義が必要になったわけですが、サラリーマンの成果の評価というものは非常に難しいものです。かといって、例えば会社に数十億円の収益をもたらした発明の対価が10万円というのでは、高度外国人材の受け入れ拡大も難しいでしょう。今後、日本企業が成果主義の方向性をとらざるを得ないとすれば、しっかりとした評価システムの整備は必須の課題となってくるでしょう。


しょ・ほう(XU,PENG) 
中国出身。1987年筑波大学卒、1992年東京大学大学院経済学研究科修了、経済学博士。その後、法政大学経済学部助手、同助教授等を経て2001年より現職。