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茅 暁陽 氏 
(山梨大学大学院 医学・工学総合研究部准教授) 


留学生の「お客さん扱い」改めよ  設備費でなく人材育成費の拡充を

 日本の留学生受け入れ政策は、以前は国際貢献のサービスの一環という意味合いが強かったと思いますが、現在では近隣諸国も著しく発展してきており、日本は国際社会で競争に勝ち残るために優秀な人材を確保していく方向性へと政策を根本的に転換していく必要があります。
 外国人の受け入れに関しては、優秀な人材を呼び込むための政策と単純労働力を入れるための政策とで意味合いが全く異なります。単純労働力は入国管理局が門戸を開けばどんどん入ってくるでしょうが、高度人材を呼び込むことはそう簡単ではありません。
 今後の留学生政策においては、留学生を留学生扱いするべきではないと思います。例えば日本には留学生専用の寮がありますが、お客さん扱いをしていて本当の意味では受け入れていないのです。移民国家である米国では留学生も米国人学生も区別なく扱っており、学生寮も奨学金も留学生だけを対象とするものはありません。また、州立大学では、先生が研究室に受け入れる学生のために奨学金等を準備して予算を工面しますが、州出身の学生は授業料が優遇され、他州出身の学生や留学生の場合は授業料が高くなります。従ってよほど優秀な学生でないと採用されませんし、採用された留学生は自身がエリートだという意識を持っています。
 米国の奨学金の種類は、まず学校からリサーチアシスタントやティーチングアシスタントとして一部学生に支給されているもの、その枠以外には日本で言う科研費のようなバジェット(国の予算)があります。これは基本的にドクターの学生をサポートするお金です。日本の科研費は設備購入資金と考えられていますが、米国の研究室の予算は博士課程の学生を何人サポートできるかでカウントし、予算の8割は人件費に使われています。設備費はある程度必要かもしれませんが、例えば私の専門分野のコンピュータに関していえば、今は安いお金で10年前の何倍もの性能の部品を買うことができます。ですから設備費として多額のお金を付けることは本当に無駄遣いなのです。むしろそのお金を日本人や留学生の区別なく支給する奨学金にしたほうが、優秀な人材が確保でき、日本の研究のレベルも上がるのではないかと思います。この点について政府は考えを変えなければなりません。設備費には産業界への寄与という観点も含まれているのかもしれませんが、日本はもっと先のことを見込んで「人」を育てていかなければならないと思います。
 その意味で留学生は、せっかく日本に来たのですから、日本人学生と交流し日本文化に触れることが必要です。日本人学生も、留学生が近くにいて異文化に接する機会があるにもかかわらず、相手から声をかけてこない限りしゃべらないような人が多いです。大学内で学生の交流が少ない現状を解決し、互いに学びあう場としていかなければなりません。
 寮についても、今後は留学生だけが入居する寮を設けるのではなく、日本人と留学生を区別なく受け入れ、互いに競って学びあうような環境を作り出すべきです。そうして交流を深める中で、留学生も自分が留学生であるという感覚がなくなり、卒業後に日本企業で活躍できる自信が付くでしょう。母国との橋渡しの役割を果たすためには、日本の文化に溶け込んだ土台がなければなかなか難しいです。やはり日本人と同じような環境で生活した体験は必要となるのです。


まお しゃおやん  
83年中国復旦大学計算機学科卒業。90年東京大学博士(理学)。民間企業応用エンジニア、ニューヨーク州立大学Stony Brook校客員研究員、科学技術特別研究員、カリフォルニア州立大学Berkeley校客員研究員。97年より現職。