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亜臨界水処理 


水で生ゴミを資源に変える  「ゼロエミッション」社会の実現目指す


 今月は、「亜臨界水処理」の研究を進める、大阪府立大学の吉田弘之教授にお話を伺った。


ゴミは「宝の山」


――先生の研究について教えてください。
 吉田 有機物を豊富に含んだ生ゴミ、食品廃棄物、汚泥、動物の糞尿を、水だけで新たな資源に変える「亜臨界水処理」について研究を進めています。
 現在わが国では毎年4億5000万㌧強の廃棄物が排出されていますが、その大部分は下水汚泥や糞尿、生ゴミやプラスチックなどの有機性廃棄物です。これらの多くはリサイクルされずに焼却や埋め立てで処理していますが、焼却すれば大量の炭酸ガスが発生してしまいます。また、全国の最終処分場も一杯になってきており、不法投棄や周辺環境の破壊などが深刻な問題となっています。
 そこでわれわれは、高温高圧の「亜臨界水」と呼ばれる状態にした水を用いて、生ゴミ、食品廃棄物、汚泥、動物の糞尿に含まれる有機物を短時間で分解し、抽出する技術を開発しました。ほぼ何でも分解できますし、水が含まれている生ゴミなら特に水を加える必要もありません。殺菌も瞬時にでき、臭いもそれほど出なくなります。
 たとえば魚は、55%が食べられる部分ですが、残り45%の頭や背骨、はらわたなどの「あら」は食べられないのでほとんど焼却処分しています。しかしそれらにはDHAやEPAといった体に良い成分が多く入っています。このあらを亜臨界水処理すれば5~10分の短時間でそれらを抽出でき、健康食品として売ることができます。肉の部分は有用なアミノ酸や乳酸などに分解されます。また、骨はリン酸カルシウムの粉末状になって出てきます。リンは窒素、カリウムとともに三大肥料のひとつですが、リン鉱石が枯渇してきており、あと20年でなくなると言われています。しかし動物の骨はリン酸カルシウムそのものなので、今後は亜臨界水処理で作るリン酸がリン鉱石に取って代わるだろうと思います。
 最後の残りかすも、メタン発酵曹にかければ、出てきたメタンガスはガス発電機に入れて発電することができます。ですから、例えば厨房がたくさん入っているビルがありますが、その地下に亜臨界水処理装置とガス発電機を設置し、メタン発酵で自家発電するようなことも可能になります。従来のようにゴミの処理費がかからなくなるばかりか、資源として売って利益が発生するようになります。ゴミはまさに資源がつまった「宝の山」なのです。特に大都市は田舎と異なり、狭い地域に大勢の人がいるので、簡単に多くのゴミを集めてくることができます。これはつまり多くの資源を確保できるということです。
 東京駅前の大手町ビルにある「大手町カフェ」には、処理装置のモデルが設置されています。この装置は毎日1~4㌧の生ゴミ処理と熱供給が可能です。また、その場でゴミを資源に変えられるので、従来のような運送コストがかからずロスが少ないのです。われわれは、このシステムを各地に設置し、地域ごとに資源を循環させる「地域分散型ゼロエミッション社会」を実現することを目指しています。


廃棄物を有価物に転化


――「ゼロエミッション」という言葉はよく聞きますが、どのような意味ですか。
 吉田 ゼロエミッションはもともと国連大学が提唱した構想ですが、正しい使い方をされていないことが多いようです。それはリサイクルとは全く違います。紙を原料に戻してまた紙を作るのがリサイクルであり、再生には莫大なエネルギーが必要です。ゼロエミッションは、同じものに戻すのではなく、違う有価物に転化させるのです。たとえばビールの絞りかすは、マッシュルームを植える培地に使えますし、残った培地は鳥や豚のえさにしたり、ミミズの養殖に使うことができます。ミミズの糞は麦畑に返し、ミミズ自体も漢方薬にできます。培地をえさにして育てた豚は、人間の食肉になります。
 廃棄物をまったく出なくすることなど不可能ですから、それらを有価物に変えて、社会全体として廃棄物がゼロの状態に近づけていく。これこそが「ゼロエミッション」の本来の意味なのです。このような観点で物事を考えていけば、社会全体がもっとうまくまわっていくに違いありません。