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プラスチック油化装置 


各家庭を「油田」に  87%ものCO2削減効果


  今月は、プラスチックを油化する装置を開発した、株式会社ブレストの伊東昭典社長にお話をうかがった。


地産地消の社会を目指す

――開発した装置について教えてください。
  私が開発したプラスチック油化装置は、容器包装などのゴミを450度の熱で分解し、溶けて発生したガスを水道水で冷やして油に還元するというものです。3時間で処理が完了し、100gのプラスチックゴミから80gの油を回収できます。できた再生油は別の装置で蒸留して、ガソリン、灯油、軽油、重油に分けて取り出し、ボイラーや発電機などの燃料として使用することができます。
  この装置の強みは、プラスチックゴミの処理で発生するCO2を大幅に削減できることです。1kgのプラスチックを単純に焼却処理した場合約3kgものCO2が発生しますが、弊社の装置で処理した場合発生するCO2は0・38kgで、実に87%ものCO2削減効果が期待できます。これによって地球温暖化防止に大きく貢献できると考えています。
  また、小型で安全性が高いことも特長です。従来の処理装置は大きくて移動できないため、わざわざ軽いゴミを集積場まで持っていかなければならず、その過程でさらにCO2を排出してしまうという環境負荷の大きいシステムでした。もし、出たゴミをその場で油に戻してその場で使うことができれば、ゼロエミッションに近づき、環境負荷を少なくすることができるのです。そこで私たちは、小型で安全性が高く、家庭でも事業所でも簡単に設置できるオール電化の油化装置を作りました。電気はコスト面であまり油と変わりませんし、水力、風力、太陽光などでも発電できますので、環境負荷を大幅に小さくすることが可能です。今後はこういった小規模の油化装置を各地に設置して、自治会や地域ごとに分別収集してもらうような「地産地消」の社会を目指すべきだと考えています。最終的には、各家庭が「油田」になるようなところまで持って行きたいです。そうなれば、もうプラスチックは捨てる必要がなくなるのです。


ゴミ処理は自己責任

  このような社会を目指すには、何よりもわれわれ一人一人の意識が大切です。そのような観点から弊社では、装置を売る前に、6年間にわたって小学校での環境教育に力を入れてきました。これは弊社の社会的ミッションともなっています。環境教育の教科書を作って世界の現状を教えるとともに、生徒たちの前で油化の実演を行い、分別収集の大切さについて自覚を促しています。


――具体的に、われわれに必要な意識とは。
  例えばゴミというものがいつできるかといえば、何かの包装容器なら、中身がなくなった瞬間に急に「人間の都合」でゴミができるのです。だからこそそれを「どう扱うか」という人間の意識が問題なのであり、私はそこで子供たちに「自己責任を持つ」ということを教えています。ゴミはその人次第でいくらでも資源にすることができます。そのようにゴミを自己責任で処理したい人たちのために、われわれは装置を提供していこうとしているのです。
  例えば南太平洋のマーシャル諸島共和国では、国を挙げて油化装置の導入プロジェクトを実施しています。マーシャル諸島は最高地点が海抜3メートルしかなく、地球温暖化の影響で100年後には海に沈んでしまうと言われています。そして、訪れた観光客が「旅の恥は掻き捨て」とばかりに捨てていく大量のゴミが問題となっており、これまでは処理施設がなかったため特に分別収集も行っておらず、すべて海に埋め立てていました。そのマーシャル諸島の大統領からの依頼を受け、私たちは地元の小学校を訪れて実際にプラスチックゴミが燃料に変わる過程を子どもたちに見てもらい、分別収集の大切さを教えました。すでに、観光客が訪れるホテルや空港をはじめ町のあちこちにプラスチック専用の回収箱が作られ、油化装置導入に向けて着々と準備が進められています。
  日本では神奈川の某小学校が、給食時に出るプラスチックゴミを回収して油に戻す「スクール油田」に取り組んでいます。「プラスチック油田」と書いたシールを貼ったゴミ箱には、みな決してソースのついたゴミなどは入れず、お風呂の残り湯で洗って乾かして持ってきてくれるのです。分別の理由が分からず面倒に思っていた子も、理由が分かればきちんと洗って分別してくれます。子供にできることなのですから、大人もみなできるに違いありません。「リサイクルは本当に成り立つのか?」などと言っている人は、自分が実践できない理由を並べているだけしょう。実践していけば、少しずつであっても今よりは確実に前進していくのです。