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緊急地震速報 


世界初の全国早期地震警戒システム  揺れる前に携帯電話等に通知


 今月は、緊急地震速報の普及に携わる気象庁の松森敏幸氏にお話を伺った。

揺れる前にあわてず対応

――緊急地震速報とはどのようなものですか。
  2007年10月1日から世界で初めて全国の国民を対象としてスタートした早期地震警戒システムです。地震の発生直後に震源近くでとらえた地震波を解析し、震度5弱以上と予想された場合、まだ揺れが到達していない地域に少しでも早く知らせて被害を軽減しようというものです。揺れの前に数秒から十数秒程度の猶予が生じますので、その間に頭を保護し机の下に隠れるなど冷静な対応ができます。過去に大きな地震に遭遇した方々の多くは「突然の揺れで何も対応できなかった」と言います。地震は場所や時間を選ばず突然起こるので、何が起きているか分からないのです。揺れる前には緊急地震速報が伝わると分かっていればあわてず対応でき、転倒した家具の下敷きになる被害なども軽減することができるでしょう。
  緊急地震速報は従来の気象警報とは異なり、人間を介さない完全自動処理による速い伝達方式をとっています。全国瞬時警報システム(J―ALERT)を用いた防災行政無線による放送や、テレビやラジオなど身の回りの機器から聞くことができます。

――放送以外ではどのようなものがありますか。
  そのほか我々はいろいろなメディアを使い、人々が在宅中・外出中を問わず受信できる方法を確保しようとしています。ケーブルテレビがあれば受信機をつけるだけで受信できますし、事業者からインターネットを介してパソコンで受信することもできます。また、マンションのインターホンを使ったシステムも発売されています。今はインターネット回線が備えられたマンションが多いので、訪問者を待ち受けるため常にON状態にあるインターホン回線とそれをつなぎ、各家庭にある機器のカラーモニターおよび警報音声を通じて通知するのです。目や耳の不自由な方にもわかるようになっています。
  携帯電話では、すでにNTTドコモとauで導入が始まっています。新しく開発された提供方法はメールサーバーを介さない同報一斉送信なので、回線状況によって遅れが出る心配がありません。現在、NTTドコモの最新機種のほとんどとauの数機種が対応可能で、無償配信サービスがスタートしています。ソフトバンクモバイルでも今後の導入を検討中です。

鉄道などを自動制御

――どのように活用されていますか。
  鉄道やエレベーター、工事現場など、地震があると何らかの被害が発生してしまうところでは、速報をコンピュータ処理して自動制御を行うシステムがすでに稼動しています。今後、走行中の車への通知やITSを活用した誘導など、様々な用途での活用が期待されます。
  このような早期地震警戒システムは現在メキシコでも稼動していますが、首都に対する警報システムとして構築されているようです。日本のようにどこで内陸直下型地震が起こってもおかしくない国は世界的に珍しく、全国土・国民を対象とする緊急速報の仕組みを構築したのは世界で初めてです。ある意味で、地震国日本だからこそ実現できた最高度の防災ネットワーク技術だといえるでしょう。
  日本には津波警報のシステムがありますが、これに緊急地震速報のシステムを活用すれば、従来3~4分かかるところを2分程度に短縮でき、さらなる被害の軽減につながると考えられます。
  緊急地震速報にはもちろん予測の誤差やスピードなど、技術的な限界が無いわけではありません。しかし、例えば天気予報も最初は「当たらない」と批判を受けながらも精度を上げてきて、今日ではなくてはならない情報となっています。2007年の新潟県中越沖地震では、緊急地震速報による自動制御で地震波到達の数秒前に列車を止められた実例があります。少しでも被害が軽減でき、お金に代えられない人命が救われるならば、この速報は出し続けていかなければならず、各方面の協力により、必須の社会インフラとして充実されていくことを期待しています。