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ESCO事業 


省エネ改修サービスを提供  浮いた光熱費分で投資額回収


 今月は、ESCO事業の普及促進を図る環境省の原田和幸氏と辻景太郎氏にお話をうかがった。

導入の初期投資は不要

――ESCO事業とはどういうものですか。
辻:ESCOとはEnergy Service Companyの略称で、ビルや工場の省エネ化に必要な設備や資金などのすべてを、包括的に提供するサービスのことです。ESCO事業者は、顧客(官庁・企業など)に対して省エネ改修を施し、それに要した投資額は、すべて省エネ効果によって浮いた水道光熱費の分でまかなわれます。導入企業における初期投資は一切不要で、契約期間終了後の経費削減分はすべて顧客の利益となります。ESCO事業者は、顧客が削減できた水道光熱費分から一定の割合を受け取ることでビジネスが成り立ちます。ESCOは事業としては一年目は赤字で、7~8年後に最初の設備投資分を回収できます。削減できるCO2量は施設の古さなどによっても違いますが、大体10~20%というケースが多いです。
  導入事例としては北海道洞爺湖サミットの予定会場であるザ・ウィンザーホテル洞爺などの民間施設のほか、地方自治体、医療機関など多くの公共施設でESCOの導入が進んでいます。
  国の機関の場合は予算を一年ごとに組むのが原則で、長期で実施したほうが良い事業は契約を5年まで延長できることになっています。しかしESCOに関しては効果を出すのに5年以上かかるケースが多いため、契約期間を10年まで延長してもよいとの条項を盛り込んだ「環境配慮契約法」が2007年5月に制定されました。
原田:環境配慮契約法では、その他に今までイニシャルコストだけで評価をしていた入札制度に、コストと環境の両面を考えた契約手法を導入することも実現しております。例えば今まで国が自動車を購入する際は、燃費や排ガス性能が一定以上という要件を満たせば、あとは最も安い価格を提示した企業に落札者は決定していました。しかしこれからは要求性能が高いことも(環境配慮契約法では環境性能とし、自動車ではまずは燃費とした)要件になり、価格と総合的に判断して落札者を決定します。このような方式が「総合評価落札方式」です。この方法では、車なら少し価格が高くても燃費が極めて良い車を買うことができます。
  環境配慮契約法では、このように契約方式を見直し環境性能の優れた製品を優先的に調達する方針を打ち出しております。
  これはメーカー側に画期的な変化をもたらすようになるでしょう。今後はコストとのバランスを取りながら、ベストな環境効率を持つ製品を作り続けていく必要があるのです。そういう機能を盛り込めないメーカーは応分の値引をしないと公共調達では製品が売れない状況になります。同様に、ESCO事業の事業者を決定する際にも総合評価落札方式を導入しており、環境効率とコストのバランスを追求していかないと受注が困難になります。今回の法制定を機に、事業者側の努力によって環境効率を画期的に改善するイノベーションが起こってくる可能性があり、発注者側も、できるだけ環境効率の高いものにお金を出そうという意識が身についていくことが期待されます。そのようにして社会全体のバランスを少しずつ変えていくことが必要なのです。
  建築物に話を戻すと、日本のビルの運用を見ると、一定期間使って大規模改修を行い、その後廃棄になることが多い。ヨーロッパのようにメンテナンスしながら長期間(100年以上)に渡り使い続ける文化ではありません。
  日本で標準的に建てられている建物の躯体の寿命は、RC造の場合は60年程度です。しかし、この寿命を迎えられる建物はこれまでは意外と少ないのです。これからは改修しながら長く使うことを考えていかなければなりません。しかし一方で、古い建物は省エネと言う観点では最適化されているわけではありません。例えば電球を交換することを考えても、すべて高効率なものに付け替えるのは膨大なコストがかかります。ESCO事業者はその経験から効率的な改修手法を提案し、受注のため競いあいます。
  ESCO事業者は改修のための資金調達を金融機関からの融資で確保することとなりますが、日本では担保がなければ一般的に融資は認められないため、プロジェクトファイナンスの進んでいる国とは、事業実施の容易さに大きな差があります。優れた事例を積み重ね、このような事業のリスクに対する考え方を変えていくことも普及のカギになります。社会全体がESCO事業に対する認識を高めるとともに、技術力を向上し効率的なESCO事業が実施されていることが普及の鍵だと思います。