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地球環境変動の観測 


海を常時観測し環境問題解決  海底下掘削し地震予測目指す


 今月は、海洋内部、さらに地球内部まで探査し、気候変動予測や、地震・津波の原因解明などを行う、独立行政法人海洋研究開発機構の細田滋毅氏(アルゴグループ)と倉本真一氏(IODP推進室)にお話を伺った。

海洋の観測網を整備
――まず、「アルゴ計画」について教えてください。
細田 世界の海洋のリアルタイム観測網の構築を目指す国際プロジェクトで、現在、日米欧をはじめとする22カ国が参加しています。水深2000mまでの水温と塩分の分布を常時監視できる海洋観測フロートを2000年から世界中の海に投入しはじめ、2009年4月現在で3325基が、世界気象機関やユネスコ政府間海洋学委員会などによる国際協力のもとで稼働しています。
  フロートは海中を自動で観測するようにプログラムされており、10日に一度海面まで浮上して観測データを衛星経由で地上局まで送信します。そしてこのサイクルを約4年間繰り返すように設計されています。このため、冬のベーリング海などひどい荒天のため船で行けなかったような海域でも観測が可能になり、また全世界の海洋の状態を船で観測に行かなくてもリアルタイムで把握できるようになるなど、これまで考えられなかった海洋の情報が得られるようになってきました。得られたデータは人類共有の知的財産であるとの考えから即時完全公開され、誰でもアルゴフロートのデータを無償・無制限で入手できるようになっています。
  アルゴフロートのデータを使った研究によって、徐々に様々な時間・空間的なスケールの海洋の変動について明らかになってきました。例えば近年、観測データの解析によって、海洋内部の水温が上昇していると指摘されています。水は空気よりもはるかに多くの熱を蓄えることができ、その熱を海洋の熱帯から極の方へ運ぶことによって、地球上の熱のバランスを保っています。このため、海洋に蓄えられた熱の量が変化すると、そのバランスが崩れて地球全体の気候を変化させる恐れがあります。また、海洋の塩分は、その濃度が海域によって異なります。これは、主に海上での降雨や蒸発量によって変化します。アルゴフロートなどのデータから、近年雨の多い海域で降水がより多く、少ない海域で蒸発が強まっているという、地球規模で大気・海洋間の水の循環が強化している可能性を観測から指摘、それを初めて定量的に見積もることができるようになりました。このことは、地球規模で旱魃・洪水が頻発していることと矛盾はしていません。このように、今まで困難であった世界中の海洋変動の解明が出来るようになってきたわけです。
  今後、アルゴ計画を継続し長い期間のデータを蓄えることで、地球規模の気候変動や温暖化に大事な役割を果たしている海洋の変動メカニズムも明らかになり、さらに中・長期の気象予報を高精度で行うことができると期待されています。そして、アルゴフロートによって海洋に関する様々な情報がもたらされることで、環境問題の解決にも大きな役割を果たすことができると考えています。

――海底からさらに地球内部を観測するプロジェクトも行われていますね。
倉本 統合国際深海掘削計画(IODP)は、日本の地球深部探査船「ちきゅう」を用いて海底下約6000mのマントルまで掘り抜き、地球内部環境やその成り立ち、そしてその役割を理解しようというものです。実現すればもちろん世界初となります。現在実行中の「南海トラフ地震発生帯掘削計画」は、巨大地震や津波がなぜ発生するのかを解明しようと世界中の科学者が集結し、数年にわたって実施する一大科学計画です。南海トラフは日本列島の東海沖から四国沖にかけて位置する地球上で最も活発な地震発生帯の一つです。海側のプレートが日本列島の下に毎年約4cmずつ沈み込んでおり、100年すれば4mの沈み込みが生じ、プレート間にひずみを生じる事になります。このひずみを解消するように、マグニチュード8級の巨大地震が100~150年周期で発生しています。このプレート境界(断層面)の岩石サンプルを直接取り出して分析し、ひずみの度合いを計測することにより、巨大地震が起こる前に地震の発生を予測できるようにすることを目指しています。掘った穴には観測装置を設置し、地震発生の前、あるいは同時に情報を陸上に伝えるネットワークを作って都市防災に役立てます。ステージ1では地震発生帯断層の直上から1400mの掘削に世界で初めて成功しており、現在のステージ2では海底下約2000m弱までの掘削を目指しています。
  海底から掘り出された地層の柱状試料(コア)には、火山噴火活動や地球磁場変動、また温暖化と寒冷化を繰り返してきた地球の歴史をひもとく情報が詰まっています。この歴史を解析することで、未来の長期的な地球環境変動を予測する手掛かりにしようとしています。
  これらのプロジェクトはすべてが前人未到の領域であり、地球内部環境の解明にはさらにマントルまで安定して深く掘れる道具が必要です。高度な技術開発が必要ですが、それ自体が21世紀の科学なのだという高い志とリーダーシップを一人一人が持って研究開発に取り組んでいます。