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クラゲチップ 


最良の天然肥料が海に  緑化に活用、一次産業活性化へ
 今月は、クラゲチップによる緑化を進める愛媛大学の江崎次夫氏にお話を伺った。

保水性を植物に利用
――クラゲチップとは何ですか。
 江崎  クラゲの体は9割以上が水分です。その抜群の保水性を植物の生育に役立てようと、熱風乾燥してチップ状にしたものです。クラゲチップは50gで8倍の400ccもの水を20時間で吸収します。また、化学肥料と同程度の約10%の窒素を含有しており、リン酸やカリも豊富に含まれています。ですから最初の1年は水分保持効果を生育に活かし、腐らせて分解した後は有機物肥料として有効活用することができます。このような最良の天然肥料が海にあったのです。
 全く環境に負荷がかからない点は大きなメリットです。例えばおむつの材料にする高分子吸収材は水分の保持力が強すぎるので植物が水分を利用できず、生分解しないので最後にはゴミの山になってしまいます。クラゲチップなら水分や肥料として植物の生育に有効活用されて、無くなりますのでゴミになりません。
 クラゲは30~40年周期で大発生するといわれていますが最近は毎年発生しています。島根県の隠岐の島周辺では傘が最大2m、重量100~200kgの個体が目撃されています。漁業被害は甚大で、千葉沖ではクラゲが網にかかり漁船が転覆する事故が起きています。しかしこの「厄介者」のクラゲも、使いようによっては厳しい環境問題を救ってくれる救世主となる可能性があるのです。

――実験の現状は。
 江崎 愛媛県の山火事跡地で苗木の生育実験を行い、現在三年目が終了した段階です。エチゼンクラゲのチップの土壌改良材を入れた植物の背丈は、入れなかったほうの2倍になりました。根付くのも早くなり、例えばネズミモチという植物は、通常の活着率2割程度の乾燥地帯でクラゲチップを用いたところ8割も活着しました。

――今後の実用化のビジョンは。
 江崎 現在、地球の陸地面積130億haの3分の1が、砂漠あるいは砂漠化しつつある地域です。私の目標は、人間の生存活動を維持しながら、クラゲチップで乾燥地帯を元の状態に戻すことです。植林で重要なことは、地域固有の植物によって地域固有の生態系を回復させることです。従って完全に植生が失われてしまわないうちに、可能な地域から復元していくことが必要なのです。私はクラゲチップを現地に持って行き、現地の植物で現地の人々と共に緑化に取り組んでいきます。結局は地域住民が自分たちで緑を取り戻す意識にならなければ前進しないのです。
 最終的には、緑化から食料生産、農業再生、森林再生へとつなげ、一次産業を活性化させたいと考えています。クラゲを干物状にすることで水産加工業者の仕事が生まれ、できたチップを農林業に利用すれば生育が活発化し、農作物や木材の形で周辺環境へ還元されていくのです。これを地域おこしや村おこしにうまくつなげ、その実績を海外にも根付かせていきたいと考えています。具体的にはアラブ首長国連邦での植林を視野に入れています。
 このように人間も含めた本来の循環系が成立すれば、クラゲの異常発生もなくなってきます。クラゲの巨大化は、東シナ海に流出している有害化学物質の摂取や、魚の乱獲でクラゲがプランクトンを独り占めできるようになったことが原因といわれています。クラゲチップを多く作ることよりも、このような壊れた海の生態系を元に戻すことのほうが重要なのです。
 また、巨大クラゲだけでなく、小さな「水クラゲ」などもチップにすれば同様に資源として活用できます。昭和30年代後半に火力発電所の取水口に水クラゲが集まり、火力を低下させなければならない事態が起こりました。現在の原発でも産廃業者に水クラゲを捕ってもらっているのが実情ですが、それらも無駄なく資源として使えるのです。まさにクラゲが地球を救うといっても過言ではないほど、期待できる資源ではないかと考えています。


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