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ダニエル ヘラー 氏 
(横浜国立大学 経営学部 准教授) 


ODAで日本語教育の奨学金を  大学・自治体の連携で地域活性化

――大学教育の英語化について。
 日本の大学教育を英語化し、日本語教育をおろそかにしてしまうと日本文化の本質や良さが伝わりません。それらが当の日本で学べないのであれば、英語圏に留学したほうがよいということになってしまいます。日本語・英語どちらの教育も中途半端になってしまうのであれば、最初から日本語教育に力を入れたほうが良いのです。
 例えば大学の留学生別科の中から模範校を定めてODAを投入し、日本語を学びに来てもらうための奨学金を創設するのも一案でしょう。日本語ができる人が増え、その後自然に日本の大学に行くような流れを作るのです。母国で学部を出て日本語の勉強を2~3年した後、日本の大学院に入るような奨学制度を作れば、留学志願者は増えるでしょう
 この制度を地方の大学で実施すれば、地域の活性化にもつながります。留学生が日本文化を体験するためには、外国人が多い都会よりも、まだ少ない地方に行くほうがよいのです。例えば海外大学と地方の大学とが連携し、定期的に地方に人を入れるような仕組みも必要かもしれません。文部科学省の奨学金には人数の制約がありますので、地方自治体との連携などはODAをうまく使い分けて実施するべきです。
 働き手としての外国人は地方にはすでに入っており、彼らは自然に日本語を覚えていくのかもしれませんが、その過程をうまくシステム化して整備すればよいのです。ただ労働者として過ごすだけではなく、ゆくゆくは日本の大学・大学院にまで入ってもらえるよう、日本を深く知ってもらうための日本語プログラムを、自治体と国公私立大学と組んでODA予算で行う事業などが考えられます。こうした事業の開発に日本政府はもっと力を入れるべきでしょう。

――いま政府は外国人観光客増を目指しています。
 今まであまり外国人との接点がなかった地方にとっては、観光客の受け入れは良い刺激になります。また、口コミや協定の締結などで留学生が来れば地域の方との交流が生まれ、地域社会も自然に多くの外国人を受け入れられるようになっていくと思います。政策としては無理をせず、交流が自然に広まっていく形にしたほうが長続きするし広く普及するでしょう。ただ、政策として取り組む以上は予算投下のポイントを明確に決めて行うべきです。
 例えば地方にはたいてい観光ビルなどがあります。政府が地方にお金を回すために作った日本人向けのものですが、それを海外広報に使えれば大きな観光資源となります。予算をかけずにちょっとした工夫で外国人がもっと日本に来やすくなるのです。何より地方には「自然」と「人」という日本の魅力が両方備わっています。それを活かさないのはもったいないことです。
 先述の別科での日本語プログラムも、地方でこそ行うべきです。母国の大学を出た方が3年日本語を勉強し、2年で修士を取れば20代後半になります。就職を考えると年齢面で多少犠牲を払うことになりますが、日本語能力や文化への理解がしっかりしていれば、会社としてそれほど不都合はないはずです。むしろ22歳で大学を出たばかりの人より経験が豊富な分、ずっと受け入れやすいかもしれません。
 もし日本語プログラムで奨学金を出すならば、最初から日本社会や企業に深く関わるつもりのある人を探して与えるべきです。日本企業の強みや弱みをよく理解できる国際人材がいまこそ必要とされています。このような人材が、日本企業の特性を把握しつつ内なるグローバル化に大いに貢献できるのではないでしょうか。ビジネス書類の読み書きをする力がなければ組織運営になかなか深く踏み込めないのです。そこまで日本語力をアップさせるには最低5年は必要です。本来は母国で4~5年間日本語を専攻してから日本に来ることが望ましいくらいです。日本語プログラムもそのレベルを想定した質のものを準備すべきでしょう。


Daniel Arturo HELLER
96年米国ウイリアムズ大卒、07年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。信州大学経済学部専任講師、東京大学大学院経済学研究科COEプロジェクト特任研究員等を歴任。2005年より横浜国立大学経営学部准教授、現職。専門は戦略的提携、自動車産業など。


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