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ベンチャー ジェンチャン 氏 
(東京農工大学 工学部 准教授) 


「区別しないグローバル化」を  相手に説明する中で自分を理解

――日本の大学の魅力とは。
 日本の大学はお金がかかりますが、そのぶん設備が充実しており腰をすえて研究できます。いっぽうフランスの大学は学費が無料ですが黒板授業が多く、最後の半年間は企業や研究所等でインターンシップをすることが多いです。

――大学グローバル化における課題は。
 フランスと日本の大学は、英語ベースではないので海外にアピールしにくいという共通の問題を抱えています。しかしそもそも日本で英語で授業を受ける必要があるのでしょうか。留学するメリットの一つは別の国に住むこと、その国の人々と交流し文化を学ぶチャンスがあることです。その意味では日本語と英語の授業を混在させ、留学生と日本人が共に学ぶ「区別しないグローバル化」を目指すのが良いのではないでしょうか。

――大学の海外へのアピールに関連しますが、名前からは中身がすぐに分からないような学部も中には見られます。
 「見せ方」は重要だと思います。なぜその研究室を選んだのか日本の学生にアンケート調査をしたことがありますが、「WEBが面白かった」「かっこよかった」等の回答が目立ちました。最初は内容が分からないのでどう見えるかで判断しているようです。
 いっぽうフランスでは、どこのインターンシップや研究プロジェクトに参加するかがかなり自分の将来に影響を及ぼし、就職活動の準備がそこから始まっています。ですから道は一本しかなく、教員は学生が専門を踏み外さないよう育てる必要があります。
 しかし日本では学生の時にどんな研究をしていても就職にはそれほど関係なく、例えば日本人なら材料系の研究室に入っても在学中に勉強して旅行会社に就職することがありえます。20歳のときに自分の将来を決められなくてもよいのです。何を勉強しても就職には関係ない、と気を落とす学生もいますが、逆に言えば卒業時に人生をリセットするチャンスがあるともいえます。学生は就職後に企業で育っていき、企業は学生を自社のカラーに染めていくわけです。

――そのような日本企業で、日本人と外国人が一緒に働いていくメリットとは?
 お互いにオープンマインドになることを通じて社内に交流が生まれることでしょう。日本人が外国人に対して主に心配することは、日本人の行動を誤解してはいないか、お客さんの前できちんと振舞うことができるのかということです。しかし自国の行動様式に慣れきっているため、自分たちがなぜそのような行動をするのかということはうまく説明できません。実は、そういったことを説明していく過程で日本人も客観的に自分のことが分かってきます。同じように外国人も自分の考えを説明することを通して自分自身に気づいていくことができ、日本人にわかってもらえるようになるのです。
 自己理解を深める際に使う言語は母国語です。創造性も、母国語で理解を深める中で出てくるものです。それをアウトプットする際の言語は、英語でも何語でもいいのです。


Venture Gentiane
フランス出身。ナント大学 情報工学研究科ロボット工学・制御博士課程修了。プジョー・シトロエン社研究員、東京大学JSPS特別外国人研究員、東京大学IRT研究機構特任助教などを経て、2009年より東京農工大学准教授。

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