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鍾 淑玲 氏 
(東京工業大学大学院 社会理工学研究科 准教授) 


観光と留学とは大いに関連  日本文化と触れ合える機会を

――日本留学を促進させるブランド戦略について。
 ブランド力を向上させるのは「相乗効果」です。例えば札幌雪まつり、富良野のラベンダー畑といった観光地の持つ魅力と、トウモロコシやキャラメルといった特産品のブランド力が結びついて北海道が大人気になりました。北海道産のトウモロコシを買った人はそれを現地に行って食べたいと思うわけです。
 日本留学においてはまず大学の知名度と、日本という地域の知名度の相乗効果があります。そして本当に日本留学してよかったと感じる学生が増えればさらに相乗効果で来る人は多くなります。来た人にそう感じてもらえるかどうかが勝負です。学生が様々な体験を通じて日本文化と触れ合える機会を多く設けることが大切です。
 観光と留学とは大いに関連しています。観光で一度日本に来て見て「ここで勉強したい」と思うようになる場合もあります。私はもともと日本文化に親近感を抱いていましたが、大学2年の時に観光で日本に来てさらに日本が好きになり、留学の動機が強まりました。その意味では、現在行われている高校生の短期交換留学も将来の日本留学の大きなきっかけになると思います。こうした短期プログラムの拡充も留学生を増やす有力な方策のひとつです。例えば本学のYSEPという学部短期留学プログラムでは、1年本学の研究生として授業を受け、自国に戻って単位をもらい母国の大学を卒業できる制度ですが、卒業後そのまま本学に戻ってきて修士課程に入る留学生が多くいます。

――留学後の出口も重要ですね。
 留学後に就職先が見つかりやすいのかどうかが留学先を選ぶ上での大きなポイントです。日本人学生と比べて留学生の日本での就職はそれほど簡単ではありません。受け入れる企業は限られているし、就職したくてもできない場合も多いので来る意味がないと感じる人もいるでしょう。その意味では、日本企業の側にもっと留学生を入れる体制を作る必要があるのではないでしょうか。

――日本の大学としてはどういう人材を育てていくべきでしょうか。
 例えば本学では日本人・外国人の別なく、グローバル社会に対応できるリーダー、どんなところに行っても活躍できる人材を育てるのが目標です。そのために専門知識をしっかり身につけ、それを応用できる能力を育てていこうとしています。それが社会に出てからの競争力につながるのです。
 留学生を入れる理由の一つは、学内のグローバル化の効果があるからです。同じ研究室内、大学内で様々な国の人とコミュニケーションの機会が増え、実際に日本にいながら留学しているような体験ができます。研究室単位でも海外大学との連携を行っているので、短期留学で相互に理解を深め、人材を互いに育て合う関係になっています。留学生を多く入れれば日本人学生に対して良い影響を与えることができるのです。いっぽうで日本人の学生の数もある程度保つ必要があります。留学生は日本人を通じて日本の文化を学びたいのです。もし海外に短期留学しても同じクラスにいるのが自国出身者ばかりでは、それほど勉強にはならないのです。


CHUNG Sulin
台湾生まれ。1999年京都大学経済学修士、2003年立命館大学経営学博士。立命館大学非常勤講師、国際教養大学専任講師を経て、2007年東京工業大学大学院・社会理工学研究科准教授、現職。専門はマーケティング、流通。

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