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杜 国慶 氏 
(立教大学 観光学部 准教授) 


国費奨学金制度に一考の余地  現地の日本語クラスから募集を

――日本の留学生支援の課題点は。
 留学生を増やすには経済的資源が必要ですが、文科省の国費留学生奨学金制度は、留学生に何の労働も求めず毎月高額の奨学金を与えており、これには一考の余地があると思います。例えばアメリカのTA(ティーチングアシスタント)は大学院留学生に授業の一部を担当させます。ゼミでの学部生との議論も院生に任せます。そのほうが多くの本を読む必要があり、会話術も非常に上達するので留学生のためになるのです。日本のTAはほとんど資料を配ったり名簿を見て出席をチェックするくらいで、これでは人的資源の無駄になってしまいます。
 大学の仕組みとしてどこまで学生を活用するか考えなければなりません。アメリカのTAは時給が日本の2~3倍ですが、それは留学生が1時間のTAを担当するために何時間も準備しなければならないことを踏まえた設定です。学生はTAだけで生活できるようになっているのでほかのアルバイトは禁止されていますが、余暇時間は多くなり、その国の文化を体験する機会が増えます。日本の国費留学生奨学金はTAの義務もなく授業料が全額免除になるのですから、額の半分は別の人に与えたほうが良いのではないかと思うほどです。

――大学のグローバル化について。
 入りやすい入り口を作る手段として英語を使うのは良いですが、大事なことは英語で日本の魅力や文化をアピールし関心を持ってもらった後に日本語学習に入ってもらうことです。ただ、日本社会や日本政府は、英語を使わなくても日本に多くの留学生がくる可能性を見落としています。例えば中国の大都市には必ず「外国語学校」があって、小学校卒業生から生徒を募集しています。希望者が一番多いのは英語クラスですが、だいたいどの学校にも1学年20名程度の日本語クラスがあります。中学1年から日本語を専攻している人が中国全体で毎年数多くいるのです。彼らは100倍もの倍率をクリアした秀才中の秀才ですから、高三の時点でほぼ全員が日本語能力試験一級に合格しており、卒業すると試験なしで中国国内の名門大学に推薦されます。日本の大学はそういう人たちをこそ募集するべきです。彼らは入学時点で日本語能力に問題がありませんので、あとは専門科目を勉強すればよいのです。韓国でも高校で日本語を第二外国語として塾で勉強している人がたくさんいます。そういう人たちを積極的に日本に招かないで「英語からやりましょう」というのもおかしな話です。
 現在、どの先進国も人材戦略を立てて世界の発展途上国に赴いて人材を獲得していますが、日本はこの点で大きく立ち遅れています。フランス政府は、中国の大学入学統一試験が終わって成績が出た各省の上位者に対し、「生活費を提供するからフランスに来て1年間無料でフランス語を勉強し、1年後には大学に通えるようなレベルになるよう頑張ってください」と声をかけています。ドイツも香港も同様のことをしています。日本は1年間の奨学金など考えなくても現地の日本語クラスから募集してくれば問題ないのです。
 高校卒業後すぐに日本の大学に入れなかった留学生は、卒業時の年齢が日本人より高いため就職で壁にぶつかっています。日本を目指して勉強してきた人材を日本社会で活かすことができず毎年どこかに流れていくようでは、留学生を受け入れる意味がありません。いま人材戦略で他の先進国に負けてしまっては、10年後に学生が人材として活躍する時に日本は空白になってしまいます。教育は10年後に効果が表れます。政府が動かないのなら大学が立ち上がって、現地から優秀な人材が直接留学できるパイプ作りに戦略的に取り組んでいかなければなりません。文科省も現地をよく調査してその方策を考える必要があるのではないでしょうか。


DU Guoqing
1993年中国南京大学大学院博士課程単位取得満期退学、2000年筑波大学大学院地球科学研究科修了、理学博士。日本学術振興会外国人特別研究員、立教大学観光学部専任講師等を経て2005年より現職。立教大学国際センター副センター長。専門は都市観光、都市地理学、観光地理など。

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