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スティーヴン・ヘッセ 氏 
(中央大学 法学部教授 国際交流センター所長) 


財政支援を多くの大学に  大学は国際化のビジョンを

――留学生受入れの課題は何でしょうか。
 まず、政府の継続的な財政支援が重要です。数年前に「グローバル30」(国際化拠点整備事業)が始まりましたが、結局13大学しか採択されませんでした。日本全体の国際化のためには、グローバル30に選ばれなかった大学にも支援すべきです。例えば「グローバル100」を選定し、大学の規模やプログラム内容によって支給額を変えるというのも一つの方法です。少数の大学やプログラムだけを支援しても、それほど影響力はありません。例え小額であったとしても、より多くの大学が国際化できるよう政府として支援すべきだと思います。今後、少子化に伴って日本人学生の大学入学者数が少なくなり、大学の収入も減少していきます。大学の収入が少なくなったとしても国際化は必要不可欠な状況の中、官民双方が外国人留学生向けの奨学金を設けている点は、非常に心強く感じます。
 また、資金面だけではなく政府、大学、企業、自治体などあらゆる段階で支援の向上が必要です。ビザの取得から語学面、奨学金の支給、住宅、保険、キャリアプラン、就職活動など入口から出口までの支援が充実しなければ、世界的な学生獲得競争の中で魅力的な留学先ではなくなってしまうからです。

――国際化のために大学は何を改善すべきでしょうか。
 各々の大学が国際化に対する明確なビジョンを持つことが何より重要ですが、日常業務に追われて、長期的なビジョンや計画を立てる時間があまりないのが現状です。解決策として、業務の負担を軽減させるために職員を増やすという安易な方法を取るのではなく、大学内の組織マネジメントを強化しなければならないと考えています。
 大学には、国際交流、キャリアセンター、出版など約60種類にも及ぶ部署があり、基本的に数年で異動があります。その際、新任の担当者へ十分に引継ぎを行ってから前任の担当者を異動させるといった円滑に業務を進める工夫や、不得意な分野の仕事を受け持つ場合、トレーニングをしっかり積ませるなど、職員の能力をより引き出す試みが必要だと思います。そうすれば闇雲に職員を増やすことなく、今まで以上の仕事が出来るはずです。また、スキルアップのための時間や環境を提供しモチベーションを上げるなど、職員がより前向きに仕事に打ち込めるようにすべきです。職員の仕事の充実が結局は学生支援の向上に繋がるのです。学生のケアだけに関心が向きがちですが、職員への対応についても大学側は改善すべきです。
 また、東大の秋入学が注目されていますが、セメスターの期間も重要だと思います。夏季休暇の利用の仕方が良い例です。現在、文部科学省により1セメスターが15週間と定められています。そのため日本のほとんどの大学では4月から7月まで授業、それから試験があり夏季休暇に入ります。一方、欧米やアジアの大学の夏季休暇は6月頃から9月頃までが一般的です。注目すべき点は、日本の大学がまだ授業を行っている6月から7月にかけて、ハーバード大学、イエール大学、オックスフォード大学など多くの一流大学は、世界中から学生を集めてサマープログラムを行っていることです。夏季休暇を利用して世界の大学で学ぶ貴重なチャンスなのですが、残念ながら日本の大学に通う学生はその機会を失ってしまっているのです。他にも、1科目に対する授業時間数が海外と比較すると短く深い勉強ができないといった問題もあります。入学時期、セメスターの期間、授業内容の密度など、世界に通用する学生を輩出するために日本全体で問題改善に取り組むべきです。

――日本の大学は、卒業した元留学生とのネットワークが弱いといった問題もよく耳にすることがあります。
 その通りです。日本は元留学生とのネットワーク作りを強化すべきです。なぜなら日本で生活し、日本語・日本文化を学んだ留学生こそが一番の大使だからです。中央大学の場合、上海、バンコクを始めとしたアジアや北米に白門会というOB・OGグループがあります。白門会のメンバーは中央大学のネットワークをさらに広めようと熱心に支援してくれていますし、日本の一部の大学はうまく卒業生のネットワークを形成していますが、海外と比較するとまだまだ不十分だと感じます。
 例えば、私の父が卒業したアメリカの大学では、卒業後約60年間、毎月郵便物が送られてきます。卒業生による旅行やイベントにも招待され、子供の頃、父に連れられて大学のOB・OGパーティーに参加したことがあります。父の知人の子供と友達になり人間関係の輪が広がるなど、子供ながらに大学のコミュニティの在り方が素晴らしいと感じました。アメリカの大学では卒業生の家族も含めた広く深いコミュニティを形成しているのです。それは大学にとって卒業生の存在がどれほど大きいかを理解しているからです。コミュニティのメンバーは、大学に対し誇りを感じて強く結束し、大学への寄付や、周りの知人に大学を紹介してくれます。アメリカの大学は卒業生との繋がりを強く持つことで知名度の向上、資金の増加という好循環を作り出しているのです。
 日本の大学がグローバル化するには課題が多く、海外から学ぶべき点もありますが、決して悲観すべきではありません。むしろ、明るく希望ある未来を築くために団結して努力すべき時だと思います。


Stephen Hesse
 アメリカ出身。バーモント法科大学大学院博士課程修了、The Japan Times, Senior Environment Columnist、マサチューセッツ州弁護士免許取得、ワシントンD.C.弁護士免許取得

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