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マリアンヌ シモン=及川氏 
(東京大学 文学部准教授) 


仏政府が英語クラスの設置方針  世界の大学と協定増加を

――母国フランスの留学生受入れについてお聞かせください。
 近年は熱心に海外から留学生を受入れていますが、3~4年前に留学生を選別する政策を出したことがあります。フランス政府が必要とする留学生を受入れようとして、学歴等をチェックするために書類選考が増え、ビザ等の手続きが面倒になり留学生数が減ってしまったことがありました。今はその政策を見直して、再び積極的に留学生を受入れています。
 昨年の数字では、フランスに来た留学生は29万人余りで、フランスの大学生の12%余りを占めています。博士課程では何と41%が留学生です。出身国別にみると、歴史的なつながりが深くフランス語ができるアフリカ諸国からの留学生が多く、最も多いのがモロッコ、次いで中国です。中国人留学生の場合、アメリカやイギリスの大学に比べ、学費が非常に安いのもフランスを選ぶ理由のひとつのようですし、自国で一生懸命フランス語を学んできます。
 また、政府は留学生を増やすため大学に英語のクラスを設置する方針を打ち出しました。実はフランスの高等教育機関グランゼコールでは、理工学系を中心に数年前から英語のクラスを実施していましたが、一般の大学にも広めようということです。反対意見も相当ありますが、政府としては進めていくようです。

――フランスの学生にとって日本への留学はどう映っていますか。また日仏間での交換留学の現状はいかがでしょうか。
 日本に関心のあるフランス人は数年前からかなり増えてきています。パリ第七大学やボルドー大学には日本学の学部があり、そこの学生は日本への留学に対する意欲もあります。学部の段階で日本に留学したいと思っている学生が多いのですが、日仏間の大学協定では大学院での協定が主で、学部では大変少ないのが難点です。例えばここ東大でも、フランス人留学生は44人で20人が研究生、あとはほとんど大学院生です。
 フランスの大学は日本の大学ともっと協定を結びたいと思っていますが、日本人学生がどれほど受入れられるかが問題ですね。フランスの大学では、留学生に対してフランス語の試験を課します。日本人の学生でフランス語ができる人には限りがあるので数的には少ない状況です。ただ、先ほど述べたようにフランスの大学にも英語のクラスが増えれば協定もやりやすくなると思います。

――日本の大学に留学生を増やすには、どうしたらいいでしょうか。
 日本は地震も多いし課題はありますが、まずは英語の授業を増やすことでしょう。欧米の学生にとって日本語は難しい言葉です。韓国人や中国人にとっては、この言葉の壁は低いと思いますが、欧米人にとっては英語の授業が多ければとてもプラスになります。日本人学生にとっても英語のレベルアップが図れます。
 二つ目は奨学金の整備です。東大の留学生のうち67%は自費で来ています。フランスでは大学まで学費はほとんどかかりませんので、フランスの学生にとって日本への自費留学は考えられないことです。優秀で意欲のある留学生、特にフランスの留学生にはぜひ手厚い奨学金を準備していただきたいですね。
 三つ目は日本の大学と世界各国の大学とで大学間協定を増やして、交換留学生を増やすのも即効性があると思います。最近、日本でも私立大学を中心に英語のクラスを増やして、学部段階で交換留学生を増やしていますが、とてもいいことだと思います。また日本の大学では、以前のように第二外国語を学生に履修させたほうがいいと思います。交換留学のときにもプラスになるでしょう。


Marianne Simon-Oikawa
 1969年生まれ。エコール・ノルマル・シュペリユール卒業。1999年、パリ第七大学にて博士号取得。論文のテーマは『詩と文字』。英文学・日本語で修士号取得。2006年10月以降、東京大学文学部准教授。専門は、フランスと日本におけるテキストとイメージ研究。特にフランスと日本におけるビジュアル・ポエトリー(視覚詩)、文字絵などを研究している。


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