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FT革命 


発酵で人類の諸問題解決  微生物には無限の可能性


 今月は、微生物の力による「FT革命」を提唱する東京農業大学教授の小泉武夫氏にお話をうかがった。


微生物の働きを利用


――「FT革命」とはどのようなものですか。
 小泉 Fは英語でファーメンテーション、Tはテクノロジーで、つまり発酵技術革命です。発酵は腐敗とは違い、目に見えない微生物が有機物や有害細菌などを分解し、植物や動物に吸収されやすい状態に変えていきます。そういう働きを利用して人間のために役立たせることを発酵というのです。21世紀に入ったわれわれ人類には、環境問題、人間の健康の問題、食糧問題、エネルギー問題という早急に解決しなければならない4つの問題がありますが、これらを全て、人間にやさしく地球にもやさしい発酵の力で解決しようというのがFT革命です。


発酵の力で問題解決


――具体的にどのように解決するのですか。
 小泉 まず環境問題ですが、現在特に生ゴミ処理が重大な問題となっています。日本の自治体の9割以上は生ゴミを燃やして処理していますが、湿っているため不完全燃焼を引き起こし、ダイオキシンが発生する恐れがあります。それで重油を加えて燃やしているのですが、その燃料費など、維持するのに年に何億円もの莫大なお金がかかります。さらに、危険といわれる焼却灰を山中の処分場に廃棄しており、将来そこからダイオキシンがにじみ出てこないとも限りません。このように生ゴミを燃やすというのは非常に大きな間違いです。生ゴミは発酵させればよいのです。発酵で生ゴミは堆肥、すなわち土に変わります。これはミネラルを多く含む肥沃な土なので、農家が従来の化学肥料の代わりに使い有機農業を行うことができます。余った土は農家の少ない大都市周辺の山に戻せば、山も川も海も豊かになっていき、本来の環境が全部戻ってくるのです。それで私たちは堆肥センターという、微生物による堆肥製造プラントを作りました。昔は堆肥作りに5年かかりましたが、ここではたった25日間で完全な堆肥を作り出すことができます。できた堆肥は周辺の農家に配っています。
 次に健康問題ですが、すでに微生物で健康を促進する様々なものが作られています。例えば伝染病の脅威がなくなったのも抗生物質という微生物が作る薬のおかげです。人類の健康は近年微生物によって支えられてきていると言っても過言ではなく、制癌剤、抗エイズ剤、抗ウイルス剤などの薬も微生物で作られています。これほど多種多様な薬の開発に対応できるのは微生物だけです。また、普通、新薬を作るには何年もかかりますし、化学反応させる大掛かりな装置も必要ですが、微生物なら人類が未知の病気と遭遇してもすぐに薬を作ってくれますし、装置も砂糖ととうもろこしの溶液のようなものがあれば大丈夫です。
 三番目は食糧不足の問題ですが、これも発酵の力で解決できます。人間がご飯を食べるのは、その中にあるでんぷんを分解してエネルギー源であるブドウ糖を得るためですが、ブドウ糖がでんぷんからしか採れないからこそ食糧不足が問題になっていたわけです。しかし、地球上に年間約6000億トン以上降っている落ち葉の繊維を、微生物がもつ繊維素分解酵素で分解すれば、ブドウ糖自体を作り出すことができるのです。落ち葉から作った食糧を人間が利用していく時代も来るでしょう。
 それから、エネルギー問題の解決にも微生物が寄与します。最近注目を集めている水素細菌は、水を体内で分解して水素を吐き出します。水素は核分裂を除く自然状態の中で一番大きなエネルギーを出す物質で、燃えたあとは水に戻ってしまう無公害エネルギーです。さらに水素細菌はありがたいことに、生ゴミを喜んで食べるので、環境問題も解決してしまいます。
 このように微生物は、あるエネルギーを獲得するため別のエネルギーを加えなければならないというエネルギー不滅の法則のジレンマを克服し、完全なリサイクル型の社会の実現を可能にします。この点が、生物による反応がもたらす一番のメリットです。


無限の可能性


――さらに多くの未解決の問題にも応用できそうですね。
 小泉 「人類が壁に突き当たったら微生物が解決してくれる」という名言もあるように、狂牛病や鳥インフルエンザの問題にしても、そのうち必ず微生物が特効薬を作ってくれます。というのも、地球上には多種多様な微生物がそれこそ無限に存在するからです。肥沃な土1グラム中だけで約30億匹いるといわれており、水分が全くない砂漠や、ナポリの海底火山の熱湯、インド洋の海底1万mの水圧の中といった極限環境にも多数の微生物が生息しています。彼らがどうしてやけどせず潰れもしないのか全く不思議です。だから逆にいえば、そういった超能力微生物から作られるものには無限の可能性があります。ある微生物が他の微生物とくっついて違う性質を持つものに変化するようなこともあるのです。微生物はすべて種類によってアミノ酸の配列が違いますので、それを利用すれば無限の情報源が出てきます。ですから様々な微生物の組み合わせで作るコンピューターバイオチップの開発もすでにはじまっています。そのうち目に見えないコンピューターなどもできてきくるかもしれません。