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グリーン水素社会  


「脱化石資源」の実現を目指す  エネルギー源を集中型から分散型へ


 今月は、「グリーン水素社会」構築プロジェクトを推進する、早稲田大学理工学部教授の勝田正文氏にお話をうかがった。


廃棄物から水素製造


――グリーン水素社会構築プロジェクトとは。
 勝田 現在水素が新エネルギーとして期待されていますが、その理由としては、まず原料が豊富な水であり資源的な制約が少ないこと、燃焼生成物が水だけであるため環境破壊の心配が無くクリーンであることなどが挙げられます。
 水素は電気と同じ二次エネルギーですから、使うには製造しなければなりませんが、しかしその製造段階で化石燃料を使いCO2を排出してしまえば元も子もありません。ですからわれわれのプロジェクトでは、可能な限り化石燃料による一次エネルギーに依存しない「脱化石資源」としての実現を目指しており、それを「グリーン水素(G水素)」と名付けています。
 既存の水素生成技術としては、石油を改質する方法や、太陽光や風力などから水電解で作る方法などがありますが、われわれはそれ以外の新たな手法で水素を作って貯蔵しようと試み、「水素供給の多様化」の実現をも目指しています。例えば農水、食物残渣などのバイオマスや、もう埋め立てぐらいにしか使えなくなった捨てる寸前の廃アルミ、半導体工場から排出されるシリコンの残渣などといった産業廃棄物を使ってG水素を製造することを提案しています。
 この廃棄物利用を軸に、都心から約80キロ北に位置する埼玉県本庄市の早稲田大学本庄キャンパス周辺地域で、企業7社及び4大学と共同で、G水素を活用したゼロ・エミッション都市の構築を目指す社会実験を展開しようというのがわれわれの構想です。地域の自然を壊さず、周辺の人口密度が高い都市部や廃アルミ集積所がある近隣地域をうまく使い、水素社会のひとつのモデルを作ろうとしています。


燃料電池車などに広く利用


――目指す水素社会の具体的な姿とは。
 勝田 G水素の利用形態としては、まず燃料電池を用いた電力・温水供給設備、「コジェネレーションシステム」があります。家庭や病院などの使用環境を想定していますので、定置型とし、水素吸蔵合金を使って常圧に近い形で水素を貯蔵・供給できるようにすることを考えています。
 この水素吸蔵合金を使えば冷えた状態も作ることができるので、それを自動販売機に応用することも考えています。高温はうまく太陽熱を使って作り出し、完成させたものは本庄地域で実際に使ってもらおうと考えています。
 道路の信号機などについても、突発的な地震や災害などの際に止まってしまわないように燃料電池で数日間電源を供給できるようにして、交通に支障が発生しないようにする試みも行っています。
 それからシェアリング用の一人乗り超軽量燃料電池車を作っています。これから日本が高齢化社会を迎え、各地域でバス等による家と駅との往復移動の機会がますます増えることが予想されますが、その際に起こる交通渋滞と環境問題を改善することを目的としています。GPSやITSを使用してどこに車があるのかを正確に捉え、会員がシェアして使えるようにします。本庄地域では新たに「AEバスシステム」という電動バスが作られることになっており、そのシステム開発とのドッキングも考えています。
 また、本学ではCOEプログラムとして、高齢化社会における人とロボットとの共生を目指した研究を行っており、その中でベッドのロボット化や電動車椅子の開発を進めています。比較的ハンディキャップの軽い方の場合は長距離移動することが多く、その分乾電池の消耗も激しいです。この乾電池の取り替えにはかなりの経費がかかり、現在国と地方自治体が折半してその費用を負担しています。そこで、電源を経済性の高い燃料電池に変えてしまうための開発を行っています。


エネルギー源の分散化推進


――水素利用社会は私たちの生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
 勝田 いま、エネルギー源は徐々に集中型から分散型へと移行しています。これまでは発電所を設け、そこから一電力会社が地域に電力を配る集中型が主でしたが、これからは地域の学校やスーパーマーケット、コンビニなどを拠点にして水素を貯蔵し、それらの拠点から周辺の100~200家庭に電気や水素を送り込む分散型のシステムを目指すのも良いのではないかと思います。コンビニに燃料電池を置いてコジェネレーションをすれば、周辺の家庭に電気や温熱・冷熱が供給できます。その際には貯蔵の安全性が問題になりますが、現在その安全性を高めるための研究を行っているところです。
 このようにG水素社会の構築は、エネルギー源の分散化を推し進めるための試みでもあるのです。例えば家庭に1台燃料電池車が来れば、車が電源になり、各家庭が発電所を抱えているような状況になります。そうすれば各家庭には水素だけ供給すれば良いわけです。水素吸蔵合金で溜め込んだ水素を牛乳配達のように配達するシステムの構築も、将来的には可能性があるでしょう。