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光触媒  


快適できれいな環境技術  日本発世界標準を目指す


  今月は、光触媒反応の発見者である(財)神奈川科学技術アカデミー(KAST)理事長の藤嶋昭氏にお話をうかがった。


水で油を取り除く

――光触媒反応とはどのようなものですか。
藤嶋  光触媒反応とは酸化チタンに光が当るときに起こる反応です。酸化チタンはペンキなどの原料として使われるごく一般的な材料ですが、それに太陽や蛍光灯などの光を当てると、強い酸化力を発生して表面の有機物を分解していきます。この働きによって水や空気の浄化、殺菌などの作用が起こり、汚れを自動的に除去して物の表面を常にきれいにするといったセルフクリーニング効果を発揮します。
  さらにもう一つの重要な作用に「超親水性」があります。これはTOTOとの共同研究を行っていた1995年に発見した現象で、鏡の上に酸化チタンを透明にコーティングして光をあてると、鏡が曇らなくなったのです。通常は物の表面に水をかけると水滴状になりますが、超親水性では水が均一に全面を覆ってしまい、油などが付着していてもその下に水が入り込んでそれらを浮かせてしまうのです。この性質を利用すれば、表面を覆える量の水さえあれば、洗剤などを使わずに油汚れをきれいに取り除くことができます。前述のセルフクリーニング作用の場合、あまりに大量の汚れは太陽光レベルの強さの光で全部分解してしまうことはできず浄化作用に限界がありましたが、超親水性作用の発見で光触媒の応用範囲は大きく広がることになったのです。


浄化作用生かし製品化

――実用化の現状については。
藤嶋  浄化作用や殺菌作用を生かした製品が、すでに数多く作られて使用されています。例えばTOTOが開発したタイルを病院の手術室に使えば、空気中にある菌も床や壁に付着することで殺菌されてしまいます。現在ではそのタイルの上に、銀や銅などの殺菌作用をもつ金属をナノテクノロジーを用いて超微粒子状に付着させていますから、暗くなっても殺菌作用が確保できるようになっています。
  また、セルフクリーニング効果を活かして、ビルの外装建材などにも多く使われています。雨が降ればきれいになってしまい、定期的な清掃作業が不要になりますので、東京駅の丸ビルのように酸化チタンのコーティング壁を採用する建物は最近増えてきています。酸化チタンはもともと非常に安定した物質で、光がありさえすれば何十年たってもずっと働き続けますので、白い壁でもほぼ建築当時そのままの状態を維持できます。
  さらに、光触媒を使った空気清浄機も数多く出回っています。これらはシックハウスの解決に有効で、疾患原因のホルムアルデヒドや有機溶剤をみな取り除くことができます。最近ではSARS対策の本命と見なされ、特に中国本土や台湾に製品化を手がける企業が多いです。
  これから実用化の進む分野では、現在東京大学先端科学技術研究センターの橋本和仁教授と神奈川県の農業総合研究所が、共同で水処理についての研究を進めています。例えばトマト等の水耕栽培では、水中に液体の栄養分を注入し循環させていますが、液が古くなると病原菌が発生しますので2~3ヶ月に1回は入れ替えを行います。その廃液により発生する公害問題を解決するためには、常に液を循環させ浄化しながら使っていけるようにする必要があるのですが、光触媒の活用によってそのようなこともできるようになってきました。


日本が世界をリード

――科学技術として見た光触媒の長所は。
藤嶋  光触媒は酸化チタンと太陽光などのありふれた光だけで快適できれいな環境を作り出すことができる技術で、従来の洗剤や薬品のように環境にも負荷を与えず、ネガティブな面が今のところありません。今までは、あるきれいな環境を得るためには周辺環境を犠牲にしなければならない場合がありましたが、その課題がクリアできたのです。私は科学技術研究の最終目的は、全人類が快適に、幸福に、健康に天寿を全うできるようにすることだと考えていますが、光触媒はその目的に一部寄与することができる良い技術だと思います。

――日本の光触媒技術の開発の現状は。
藤嶋  現在日本は光触媒技術の開発で世界をリードしています。国内の特許出願件数は毎年1000件以上で、ありとあらゆる業種の企業が参入しており、05年には1兆円産業になるだろうとの市場予測もあります。ただ、単に光触媒だからと面白がって製品を買う人も多いため、まがい物が出てきている可能性もあります。そこで経済産業省の支援のもとに私が委員長となって「光触媒標準化委員会」をつくり、05年度までにJIS規格を定めることを目指しています。さらにそれをISOに提案して国際規格にし、日本発の世界標準にしようと準備を進めているところです。