タン ブン イーさん (マレーシア出身)
(東京工業大学大学院・在日マレーシア留学生協会会長)
次世代メモリの開発 企業と共同で研究
――研究の内容について。
私の研究室では、NEDO(財団法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)や日立、富士通などと共同で、「次世代強誘電体メモリ(FeRAM)」についての研究を行っています。これは従来のメモリより低い消費電力で高速な動作が可能な新しいメモリです。
現在DRAMというメモリがコストが安いのでよく使われていますが、それには消費電力が高いという欠点があります。なぜなら1回電源を切ったらデータが消えてなくなってしまう揮発性のメモリなので、使うには電源を入れ続けなければならないからです。
このほか普及しているメモリとしては、強誘電体メモリというものがあります。これは電源を切ってもデータはそのまま残る不揮発性のメモリで、必要なときだけ電源を入れればいいので、消費電力が少ない点が注目されています。デジタルカメラのフラッシュメモリなどに使われており、電源を入れればデータが出てきます。ただ、これには動作速度が非常に遅いという欠点があります。
DRAMと強誘電体メモリのこれらの欠点を克服し、かつ長所を兼ね備えているものが次世代強誘電体メモリなのです。
――改良したのはどのような点ですか。
すでに製品化されているDRAMも強誘電体メモリーも、書き込んだデータを1回読み出したらデータが破壊されてなくなってしまうので、再書き込みの動作が必要です。読み出すたびにそういう面倒な動作を繰り返すので電力を消費し、動作のスピードも遅いため、この方式には将来的に限界があります。そこで私の研究室では、「非破壊読み出し」の強誘電体メモリーについて研究しています。つまり一回書き込んだら何回読み出してもデータが消えず、電源を入れれればいつでも読み出しと書き込みができるというものです。今は基盤技術を開発している段階なので、とりあえず10日間電源を切ってもデータが消えないようにすることを目標にしています。
さらに、材質を高品質化しメモリを小さく薄くして、低電圧で使えるようにすることも目指しています。普通細かい回路が集まると熱くなるのですが、低電圧にしたら消費電力が小さくなり発熱も抑えられ、さらに高密度、高集積化が可能になります。回路が小さくなれば早く動くので、メモリの高速化につながります。また、高集積化すると一つの単位につき複数個の回路が作れるので、コストパフォーマンスが高くなります。こういう背景があって、現在多くの企業でもこのような方向を目指した開発が行われています。
――具体的な実用の形は。
例えばクレジットカードなどに使われているICチップに次世代強誘電体メモリを使えば、高いセキュリティーで大容量のデータをチップに入れられるといったメリットがあるので、ICカード分野の開発が進んでいます。またモバイル機器などの情報処理機器に使用すれば、消費電力を大幅に低く抑えることが可能です。
――なぜこの研究をしようと思ったのですか。
企業と一緒に研究できるという点ですごく良い体験になるだろうと思ったからです。学部のときからこの研究には携わってきました。もともと昔から電気関係のことには興味があったのです。
――なぜ電気関係のことに興味を持ったのですか。
マレーシアでもそうですが、電気分野の技術者はどこでも必要とされていますので、勉強したいと思ったのです。
――将来はどうしますか。
マレーシアに帰って、技術を生かし企業等に就職したいです。私が日本でやっている研究は最先端の研究ですが、半導体の開発はお金がすごくかかるので、その研究を続けようと思ってもマレーシアではまだ難しいと思います。今は学生として、研究開発する上でのものの考え方や、問題解決能力を身につけていきたいと思っています。