Top向学新聞今月の人塔木扎布さん


塔木扎布(タムザブ)さん (中国内モンゴル出身) 
(筑波大学大学院 バイオシステム研究科) 


沙漠化防止の研究  高レベルの技術求め来日

――研究内容について。
  私の専攻は中国内モンゴルの沙漠化防止についてです。沙漠化の原因はいろいろありますが、その中でも家畜の過放牧によって沙漠になったパターンについて研究しています。もともと内モンゴルでは一年中放牧を行っていますが、人口が増え農業開発と開墾が多くなるにつれ、しだいに草原の面積が狭くなってきました。それにも関わらず家畜の数は増えていますので、草原部にかかる負担がどんどん大きくなり沙漠化が進行してしまうのです。家畜は春のまだ草が短いうちに食い荒らしてしまいます。特にヤギなどは足で地面を掘り返して根まで食べてしまいますが、食べるものがないからそうせざるを得ないのです。これが内モンゴルの牧畜の現状です。
  だからといって単に家畜の数を減らせば沙漠化が防止できるわけではありません。沙漠化してしまった地域をもう一度緑化することも必要です。従ってどのような植物が一番沙漠に適しているかということも含めた生態系回復に関する研究を行ってきました。全くの沙漠地域に緑を再生するのは容易ではありませんが、私が研究対象としている「ホルチン地域」はまだ「若い沙漠」で地下水がありますので、もし3年間家畜が入らなければ草が沙漠の上に生えてくると見られています。ですから家畜の入らない地域を作って寒さや乾燥に非常に強い種類の木を植えるなどの策を講じていました。しかし家畜が入らないようにすること自体大変なので、中国政府はついに省に家畜の放牧を禁止させたのです。すると地元の放牧民の収入がなくなり、家畜を飼う餌も買えなくなります。これは制度や資金、技術や国民の意識などいろいろなことが絡み合った問題なのです。政府は西部大開発の名のもとに生態系を再生するための政策をとっており、資金も投入して応援しています。例えば砂嵐の源は内モンゴルをはじめとする北方なので、沙漠との境界に防風林を作ることを制度化しようという動きがあります。これは黄砂防止と沙漠緑化の両方のメリットがあります。しかし植林をしてもやはりヤギが食べてしまい、雨が7~8月以外はほとんど降らないので枯れてしまうことも多いのです。沙漠植林は木を植えればそれで終わりなのではなく、家畜が入らないように、また枯れないように、定着率を高めるための管理をしなければなりません。そのためにはまず地元民の意識改革が必要になってきます。

――研究を志した理由は。
  私が生まれた内モンゴル東方のホルチン地域は、500万ヘクタールの沙漠地帯です。沙漠の生活は大変で、3月から5月にかけて砂嵐が頻発し、ひどいときは自分の指先が見えないくらいになります。私の大学時代の専門は獣医学で、卒業後、肉の輸出等を行う貿易会社で食品衛生検査官として数年間働きました。そこで知ったのは、春に草がないため家畜が痩せて商品にならず、さらにその家畜が沙漠化の原因になっているという内モンゴルの現状でした。それで、畜牧と沙漠化の関係を研究していこうと思ったのです。
  私は今年3月に日本に来たばかりですが、大学時代に母国で日本について調べ、沙漠化防止技術の高さもある程度わかっていました。それで93年に8ヶ月間日本語を勉強し、95年には北海道に留学しようと思いましたが叶いませんでした。しかし偶然「日本沙漠植林ボランティア協会」と出会い、97年から昨年までそこで通訳として働く機会を得ました。
  日本は沙漠がないのに沙漠化防止技術では世界で一番高いレベルにあるといわれており、研究のため日本に来る人も多いです。私が実際に来てみるとレベルの高さは期待通りで、特に筑波大では中国内モンゴルやオーストラリアの沙漠緑化の研究が盛んです。資料も豊富で図書館などの設備も充実しています。来年は修士課程に進みさらに研究に励んでいこうと思います。