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向学新聞2009年11月号


30万人計画、成果はこれから
 


英語授業導入に課題 (大学・短大実態調査)
日本語教育の重要性浮き彫り


 文科省等が推進する「留学生受け入れ30万人計画」に対して、大学等の多くが、成果がそれほど上がっていないと感じていることが、株式会社さんぽう(本社/東京都渋谷区)が行ったアンケート調査で明らかになった。既に入学している留学生の問題点としては、日本語能力の低さを挙げた大学が多く、留学生と大学とのミスマッチの原因となっていることもわかった。日本企業への就職希望者は増加傾向にあるとの回答が多い一方、景気を反映してか、企業側の採用意欲はやや減少したとの回答が多かった。


  留学生受け入れ30万人計画は2008年に福田元首相が提唱、その後文科省ら関係省庁により骨子が策定された。2020年までに30万人の外国人留学生受け入れと、日本企業等への就職者増などを目指している。
 調査は2009年7月9日から31日にかけてFAXによって行われ、141大学・短大からの回答を得た。
 30万人計画について「上手くいっている」との回答は留学生を受け入れている大学の7・3%のみで、69・1%が「あまり変わらない」と回答しており、成果を実感できていない大学が8割強にも上る現状が明らかになった。
 30万人計画がうまくいっていない理由としては宿舎や奨学金の不備のほか、英語による授業の不備を挙げる声が目立ち、日本の大学にとって英語カリキュラム導入の難しさが計画実現のネックともなっている状況がうかがえる。
 今年7月に都内で行われた全国の大学留学生担当者の研究会議では、英語授業導入の意義について様々な意見交換がなされた。留学生30万人計画は入口のハードルを下げるための英語授業導入を謳っているが、「英語だけできても日本で就職活動はできない」「日本語が難しくて入って来られなかった人もいるので良い試みだ」「人文科学分野では英語で教えられる先生がいない」など賛否両論が飛び交った。都内の某日本語学校職員は「大学の英語コースを卒業後に就職活動のため日本語学校に再入学する人が増えている」と報告し、政府の意図と学生の現実とのギャップも窺われた。海外大学との単位互換推進のために英語プログラムを実施する大学も出てきているが、大学全体の運営方針とも密接に関わる内容だけに、英語授業導入の是非を巡っては今後も論議を呼びそうだ。
 また、調査によると、留学生と大学側のミスマッチの原因として「日本語の習得が十分でない」と回答した大学は52・7%に上っており、「授業料・生活費が高くて渡日できない」の36・4%を上回った。経済的要因よりもむしろ日本語の習得が障害となっており、大学で日本語の授業を受けても理解できるレベルにない学生が増加しているという、深刻な状況が垣間見える。入学前の日本語教育の重要性があらためて浮き彫りとなっている。
 留学生の就職環境については、日本企業への「就職希望者が増えている」と回答した大学は41・8%、短大は60%に上ったが、実際の卒業後の就職状況は「以前と変わらない」との回答がそれぞれ半数近く、企業側の採用意欲は「減っている」との回答が大学37・3%、短大46・7%と多く、昨年から続く景気の悪化を反映した結果となった。留学生が日本で就職したい理由として「母国での就職難(特に中国)」を挙げた大学もあったが、留学生にとっては就職活動の厳しさは日本でも変わらないようだ。今後、日本での就職を目指す留学生にとっては、早期の目標設定と将来設計、それに合わせた能力形成をいかに行うかがカギになりそうだ。また、大学側にとっては、例えば英語コースを卒業した学生に、日本で就職できるほどの日本語能力をいかにして身に付けさせるかが課題になるとも考えられる。


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