Top>向学新聞>日本で働く留学生OBたち>伝統×AIビジネス最前線 株式会社ima 吉富愛望 アビガイルさん 2019年4月1日号
杜氏の技再現しやすく
日本発の乾杯酒を世界に
よしとみ めぐみ アビガイル
早稲田大学、東京大学大学院にて物理学を専攻しヘリウムを研究。仮想通貨・ブロックチェーン系の企業で海外案件のプロジェクトマネジメント等を担当したのち、2018年より現職。
日本酒は米麹と水だけで作ることから、近年オーガニック食品としての評価も高まりつつある。世界38カ国に日本酒を展開する岩手県の蔵元「南部美人」は、株式会社imaとタッグを組み、酒造りにAIを導入している。そのシステム構築を手がけるimaの吉富氏に狙いを聞いた。
杜氏のセンスを数値化
蔵元「南部美人」での実験の様子
(写真提供/株式会社ima)
――貴社では酒造りにAIを役立てるユニークな事業をされています。人間の感覚が重視される酒造りのような世界にもAI技術が入り込めることは驚きです。
我々が開発しているのは、日本酒の製造工程の中でも特につくり手の五感や経験に頼る浸漬という工程を分析するAIです。浸漬とは、お酒の原料となるお米を、蒸す前に水に浸してから引き上げる作業です。全ての米粒に水を均一に吸わせることが重要なこの工程ですが、必ずしもお米の形や大きさは均一ではありません。蔵元がひとつの田に限らず、様々な地域から酒米を仕入れればなおさら、様々な形状のお米が集まります。このような背景から、浸漬の工程では古くから熟練の杜氏(酒造りの責任者)の感覚が頼りにされてきました。杜氏は、お米の形状を目で見て確認しながら、ストップウォッチを用いて数秒単位で水から引き上げるタイミングを調整するのが一般的ですが、熟練者が具体的にどのような情報を頼りにタイミングを決めているかはブラックボックスです。引き上げる前と後の米の写真を撮り形状を分析した結果の値や気温など、杜氏が判断材料としそうな数値をかき集めて規則性をAIで探るのが今回のプロジェクトの試みです。
これは杜氏を排除するためのものではなく、杜氏が使うツールのひとつです。今まで杜氏がセンスで判断していたものを数値的にわかるようにすることで、下の代の人が「たぶんこの杜氏はこういうことを基準にして判断している」と考えやすくなり、杜氏の技を再現する際の指標ができます。そういう指標を作ることで、今まで10~20年かかっていた日本酒造りの伝統継承を5年、3年で実現することができるのではないでしょうか。
――酒業界では継承者不足が深刻な問題なのでしょうか?
そうですね、黒字であっても味が再現できないのでつぶれることもあります。日本酒は無形文化財に指定されたことがきっかけで注目が集まっていますが、海外で需要が出てきても後継者不足で安定的に供給されなければ意味がないので、おいしいお酒が何世代にもわたって再現できるような環境づくりに取り組んでいます。
日本の乾杯シーンは日本酒で
そしてもうひとつ、弊社は日本酒造りの工程だけでなくブランディングや販売にも関わっております。新しい泡のある日本酒「awa酒」を世界に広めるため、蔵元と共に「一般社団法人awa酒協会」を立ち上げ、現在は品質認定を行う事務局の役割を担っております。
いま世界の乾杯シーンで飲まれているのはほとんどシャンパンであり、それが社会通念にまでなっています。日本でも、国が関わる行事や和食の料亭では乾杯酒にシャンパンが使われることが多いのではないでしょうか。でも考えてみればシャンパンは、もともとフランスのとても小さなシャンパーニュという地方でできたお酒です。日本には國酒の日本酒があります。日本酒で乾杯したってよいじゃないか。そう願う蔵元が日本酒をベースとして作った泡のたつお酒がこの「awa酒」なのです。
普通のスパークリング日本酒は二酸化炭素を充填して泡を出したり、濁っていたりするものが多いのですが、「awa酒」は瓶内で発酵する際に生じる自然なきめ細かい泡や、澱のない透き通った見た目が特徴です。また、火入れをし海外進出にも対応可能です。awa酒は、スパークリングワインの中のシャンパンのような立ち位置を目指すというと伝わりやすいかもしれません。「awa酒」の厳格な品質基準は一般社団法人awa酒協会が定めています。
現在、awa酒を醸す蔵は15蔵あり、北は岩手から南は大分まで、みなで一致団結してawa酒の普及に努めています。
グラスに注がれる「awa酒」
(写真提供/株式会社ima)
――シャンパン協会が規格と商標を定めて維持しているのと同様に、日本発の新しい価値を世界に提案していこうとしているのですね。
そうですね。awa酒というカテゴリーの認知度を高めたい一方で、一般消費者、飲食店や酒販店での認知度はまだまだ低く、スパークリングワインとシャンパンは区別されて店頭に並ぶことはあっても、awa酒とそれ以外が区別されて店頭に並ぶ日はまだ先かなと感じています。そこで、弊社ではawa酒を専門としたECサイト「awa酒専門店 (awasake.com)」設立により、ネット上にawa酒コーナーを設置・運営するに至りました。今後も、日本酒業界のような日本の伝統業界を盛り上げる活動をしていきたいと思います。そして、この記事を読んでくださった学生が、日本酒業界に興味を持つことを願っております。
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