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向学新聞2024年10月号目次>日本で働く元留学生たち 李 肇昕 さん

<向学新聞2024年10月記事より>
日本で働く元留学生たち
李 肇昕 さん
(台湾出身)
日本スキー場開発株式会社勤務

人間関係はお互いの努力
目標をもって自己成長を
―李さんはどのような学生時代を過ごしたのですか。
最初は、関西大学に交換留学で1年の予定で来ましたが、勉強するほど日本語や日本での留学生活が面白くなったので、受験をして正規学部生として入学し、合計5年間学びました。
私の性格が日本人と合うのだと思いますが、大きなカルチャーショックはなかったです。台湾留学生会の活動や、ゼミでの活動がとても良い経験となりました。
私が入ったゼミは、しっかり研究するゼミで、周りは全員日本人でした。長く一緒に過ごすことで仲良くなり、日本語力の上達だけでなく、日本人の考え方等も理解できるようになりました。様々な友達ができたことで、留学生会でイベントを開催する際に、台湾人だけだとつまらないので、ゼミの日本人の友達も誘って一緒に参加してもらい、交流の機会を作ったりもしました。
ゼミでは、自分だけが外国人なので、意識して、外国人としての考えを伝えたり、台湾の事を知ってもらうようにしました。ゼミの友達を連れて、台湾旅行に行き、私が現地を案内したこともありました。とても楽しかったです。
◆採用側の視点
―李さんは、今年の4月から人事部で採用の担当をされています。採用する側の視点から、留学生へはどのようなアドバイスがありますか。
まずは、自己分析をしっかりした方が良いと思います。受験レースとは異なり、日本での新卒の就職は「マッチング」ですから、早くゴールすることや、大手有名企業に入る事が必ずしも成功とは限りません。落ち着いて、自分は何のために生きていくのか、どのような未来の生活を思い描くのかを考えたり、これまでの人生を振り返って興味・関心を整理することは、人生の分岐点で大切な作業です。
私は、ゼミで、鹿児島県曾於市に現地調査をして、地域の活性化について研究しました。それがきっかけで、日本の過疎地域の可能性に興味を持つようになりました。就職活動中に、合同企業説明会で今の会社と出会い、地方創生に貢献できる仕事ができると思い、応募しました。
日本には、会社規模にかかわらず、良い企業がたくさんあります。しかし、自分の就活の軸が定まらないと、選ぶことがとても難しいです。
もう一つは、アピールするポイントについてです。留学生の多くが「語学力」を一番の武器としてアピールしたり、「海外ルーツを活かせる海外と関わる仕事をしたい」と希望します。しかし、企業側は、文系職種なら特に、「日本語で、日本人と同じようなパフォーマンスを発揮してほしい。それができた上で、海外出身者ならではの外国語力や経験・アイデアを活かして活躍してほしい」と考えています。
採用して育てる方針の企業が多いので、人間性や考え方、思考力等を見ています。それらを把握するために、これまでの経験(成功、失敗、チームで取り組んだこと等)を聞きます。ですから、学生時代には、日本語力のアップや専門分野の勉強以外にも、人と関わりながら、自分で考えて行動する経験を多くしておくことをおすすめします。
また、就職活動でも入社後も、「自分は外国人だから~」という言い訳はせずに、日本人に負けない気持ちで臨む方が、成長が早いし楽しいと思います。

―貴社では、外国籍社員にどのようなことを期待していますか。
私たちの会社は、外国人留学生を積極的に採用しています。インバウンドの旅行業なので、海外の最新情報を現地のSNSや新聞をチェックし、情報収集をしています。その時に、海外出身者であれば、現地の情報を集めることが上手ですし、通訳なしで海外の商談に行き、直接交渉したりすること、企画や設計のセンスなども期待しています。しかし、大前提として、「日本人と同じパフォーマンスを発揮できる」という基本的な事は欠かせません。いずれは、部長クラスから、管理職・経営者になれる外国籍社員を育てたいと考えています。
◆活躍のための環境整備
―企業側には、長く活躍してもらえる環境整備の課題があります。貴社ではどのような取り組みをしていますか。
大きくは二つあります。まずは採用段階でのマッチングですね。当社の場合は、長く活躍している方の傾向として、地方創生への熱意がある、または、スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツが好きな人が多いです。ミスマッチが起こらないように、採用選考ではそこをよく見るようにしています。これは日本人も外国人も同じです。
もう一つは、外国人社員に対して、「会社を自分の居場所」と感じてもらえるようにすることです。具体的には、数カ月に一回、定期的に個別面談をしてフォローしています。困っていることはないかの把握と、入社時に決めた目標に対しての現在地把握や、次の目標設定を一緒にします。
定着を考える時に、直の上長と良い関係が築けているかが、大きく影響すると感じます。私は、良い人間関係を作るには、お互いの努力が必要だと感じています。日本人社員には異文化理解促進を、外国籍社員には日本語の上達を求めています。外国籍社員との面談では、現在がN2ならば、いつまでにN1合格を目指す、など目標を一緒に決めて目標達成のために努力してもらい、また定期的にフォローします。
目標がないと、漠然と今を過ごすだけになり、自分を見失います。目標があれば、そこから逆算して、今何をすべきかが明確になりますし、少しくらい大変なことがあっても乗り越える気力が出てきます。
留学生も、大学に合格すると、次の目標を決めずに過ごしてしまい、1年後の日本語力の上達に大きな差が出るケースを多く見てきました。新人研修をしていると、研修内容について「なぜこのような研修をするのですか」と聞く人がいます。一方で、自分で目標を持ちポジティブな発想の社員は、自分で意味を見出して前向きな姿勢で取り組みます。新人は何でもやって経験から多くを学んでほしいので、ポジティブに行動する人は伸びしろが大きいと感じます。目標に向かって自分を成長させると、会社やお客様から必要とされる社員となり、それが自分で居場所を作ることになります。
◆仕事でのやりがい
―どのような時にやりがいを感じますか。
自分が責任を持った仕事が、具体的な形となって成果をあげられた時は、本当に嬉しいですね。当社はベンチャー気質なところがあり、自分の性格と合っていると感じます。これまでに、4回ほど海外出張に行きましたが、上司からの指示で行ったものは一度もありません。自分から情報収集をして、収支の計算をして、この出張に行かせてもらえたらどのくらいの売り上げが見込めるか、説得材料を揃えて経営陣に説明し、許可をもらって行きました。もちろん新人研修もありますが、自分で考えて挑戦したい人が向いていると思います。
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