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渡辺利夫氏(拓殖大学総長・学長)×佐々木瑞枝氏(武蔵野大学教授) 


設立時からグローバル志向  
桂太郎塾でエリート養成

 拓殖大学は約100年前からグローバル人材育成に取組み、成果を上げてきた。今回は、武蔵野大学の佐々木瑞枝教授が、拓殖大学の渡辺利夫総長・学長に話を伺った。


(佐々木)拓殖大学はどのようにグローバル教育に取り組んでいらっしゃるのですか。

(渡辺)実は、拓殖大学の成り立ち自体がグローバルなのです。拓殖大学は、台湾で活躍できる人材を育てるために1900年に創立された「台湾協会学校」が母体となっています。当時の卒業生のほとんどが、語学力とそろばんを武器に一人で台湾や中国などに赴きました。志が高く、熱い情熱をもった学生達ばかりでした。当時の日本には、拓殖大学に類するようなグローバルな大学は存在しませんでした。その伝統は今日にまで受けつがれており、海外志向が非常に強い学生が多数学んでいます。インドネシアやブラジルなどの世界各地に、卒業生が数多く定着して国際開発に貢献しています。

(佐々木)その中でもアジア志向が強いとお聞きしています。

(渡辺)その通りです。アジア各国と交流を深めることに極めて熱心な大学で、中国、台湾、韓国、タイ、インドネシア、ウズベキスタン、フィリピン、マレーシア、モンゴルなどアジア各国の大学と提携を結んでいます。米国やイギリス、ブラジルなども含めて、全部で21カ国・44大学にネットワークが広がっています。

(佐々木)拓殖大学に在学している外国人留学生も多く、国際的なキャンパスのようですね。

(渡辺)現在大学院、学部、留学生別科合わせて、1182名の外国人留学生が本学で学んでいます。今年4月には、新たな学生寮「カレッジハウス扶桑」が完成しました。英語、ポルトガル語、ドイツ語が堪能なスタッフが常駐しています。また、八王子留学生寮など外国人留学生を対象にした寮を完備しています。
(佐々木)国際学部では、国際協力や国際政治、国際観光などのコースに加えて農業コースもあるのが特徴的ですね。

(渡辺)そうですね。農業と言えば、理系学部で学ぶことが多いですが、我々は文系のグローバル農業人材を育成しています。農業は次の時代を切り拓く産業の一つです。世界的規模での食糧不足が深刻化する傾向が懸念されているからこそ、農業に力を入れています。
 また、拓殖大学北海道短期大学で1年間の農業留学も実施しています。北海道で最も土壌が良い場所に立地し、田んぼ、畑だけではなく農産物の加工工場もあります。教場での勉強と土壌での勉強を修得した学生を輩出したいと思っています。 国際学部の学生は農業コースを含めて、中国、マレーシア、フィリピン、カナダなどへの短期研究(2~5週間)も実施しています。農業に取り組むことで、農業技術と開発協力、国際ビジネスとのコラボレーションを可能にします。

(佐々木)素晴らしい取組みですね。さらに、エリート養成のための私塾も開校されていますね。私も一度講師としてお話ししたことがありますが、学生たちの積極的な姿勢に感銘を受けました。

(渡辺)リーダーやスペシャリストを養成することを目的とする、本学初代学長の名前を取った「桂太郎塾」を2009年からスタートさせました。本来大学はエリート養成の場でしたが、現在は二人に一人が大学生という高等教育の大衆化時代です。そこで、幕末期に数々の英傑を世に輩出した「松下村塾」を開いた吉田松陰を敬慕していた桂太郎氏の志を胸に、現代版「松下村塾」を理想に掲げ開塾しました。正規授業以外に週2回授業を開講し、多数の文献を読み、レポート作成、ディスカッションを繰り返します。また、各界のリーダーを講師としてお招きして見識を広めています。

(佐々木)様々な人材育成の取組みの結果、東日本大震災時には、拓殖大学の精神が被災地で発揮されたそうですね。

(渡辺)はい。東日本大震災生以来、拓殖大学の多くの学生がボランティアに励んでいます。国際学部の学生は、震災直後から準備を始め、5月の連休に入ると教員と共に石巻市に向かいました。また、学生レスキューボランティアチームは釜石市で救援活動に従事しました。拓殖大学と石巻市は過日ボランティア協定を結びました。石巻と釜石の救援活動に携わった学生は300名を越えています。  
 ボランティアチームのあるリーダーは、震災発生後ただちに石巻に向かいました。彼の心を捉えたのは、「自分はいま東北の被災地に行かないと一生後悔することになるという直感であった」と言っています。国際協力といっても海外だけではなく、国内の同胞を助けたいという思いも当然もっています。

(佐々木)素晴らしい取り組みですね。貴重なお時間をありがとうございました。
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わたなべ としお 慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。筑波大学教授、東京工業大学教授、拓殖大学国際開発学部学部長などを歴任し、2005年4月に拓殖大学学長、2011年12月より総長に就任。


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