Top向学新聞日本で働く留学生OBたち>ハサン・アンマールさん


ハサン・アンマールさん(シリア出身) 
(大成建設株式会社) 


まず社会に溶け込む  提案できる人材に魅力

――日本留学のきっかけは。
  私は大学卒業後に土木のエンジニアとしてシリアとアラブ首長国連邦(UAE)で働きながら、経営学位を取得するため勉強していたとき、参考文献として松下幸之助の本を紹介されました。どうすれば彼のように事業を国際的な規模に持って行けるのか興味がわき日 本に行くことを決めました。
 現在、グローバルビジネスをする中で感じることは、各国の価値観や習慣への適応が重要だということです。いくら世界的に展開しても、地域文化への馴染みがなければビジネスは成り立ちません。留学生がグローバル化時代に貢献できる人材となるためには、まず日本社会に溶け込めることが大前提です。留学生活を通して日本のローカルな文化を十分に理解しておく必要があります。
  ビジネスの現場では、海外現地の人が評価することと自分が大事だと思うことの両方を把握し両立させなければなりません。ある商品がある地域で成功したからといって他の地域でも成功するとは限りません。例えば日本人は商品の細部まで手抜きせず仕上げますが、中近東の人たちは細部は重視しておらず、むしろ製品のサイズ、形、使いやすさが通例に合わないので使えなかったという類の失敗例が多いのです。いくら規格のグローバル化が進んでも、現地の人たちには生来持っている独特なものの見方があります。だからこそ日本企業としては、そういう数字で把握できないものを把握する役割を留学生に期待したいのです。

――外国人の就職と定着の促進における課題点とは。
  もし外国人の定着に不利な内容があるとすればそれが何であり、どうアプローチすればそれを変えられるのか外国人自身が理解する必要があります。この国をホームにしたいという人たち自身が努力しなければ日本は変わりません。日本人の考え方を理解し、誰とどう話し、どういう根拠を付けて納得させれば良いか。私はそれらを理解し日々努力しています。意見の対立を避けたり、両方の見方を尊重して全く変えようとしないスタンスはどちらも間違っています。主張しながらも相手を尊重し、「あなたが言っていることの一部は私以上に良いのでそれを取り入れたい」となった時にふれあいが生じるのです。別の考え方を持っている人は放っておけ、という風潮は良くないと思います。
  私は自社で留学生の採用面接をしていますが、よく「私は日本の独特な考え方を完全に理解していて貴社に完全に順応できる」と言う人がいます。しかしそれだけでは日本人と同じですので企業にとってメリットがありません。「私は多少違った見方も持っており、貴社に入ればその見方を提案して納得させるようアプローチしていくことができます」と、そこまで主張してほしいです。つまり「わが社があなたを採用してどんなメリットがあるのか」を示してほしいのです。「会社が努力して変えていくべき部分があれば私がどんどん提案していきます」と主張できなければ、企業にとっては魅力がありません。何ヶ国語も話せるのは確かに優秀かもしれませんが、そういうことばかり主張していると企業は通訳者としてしか使わなくなるでしょう。その言語を使って何をその企業に提案できるかが問題です。例えば「アラビア語を知っているから、貴社がUAEに進出する際には、言葉を通して現地の人が商品に一番何を求めているか理解できます」と言うことができるならば、そういう人こそが企業にとっては「優秀」な人材ということになるのです。


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