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三遊亭 好青年さん 


史上初のヨーロッパ出身プロ落語家

三遊亭 好青年

三遊亭好青年
本名:Johan Nilsson Björk
(ニルソン・ビョルク・ヨハン)
スウェーデン生まれ。ストックホルム大学卒、南山大学に交換留学、中央大学に留学、東京フィルムセンター映画・俳優専門学校で俳優総合専攻。2016年三遊亭好楽に入門。2020年二つ目昇進「三遊亭好青年」。日本語落語はもちろん、英語による落語公演で国内外で活躍。落語以外にも、司会、スウェーデンや多文化共生についての講演等も行い、TV、ラジオ、雑誌、CMにも出演。2022年三遊亭竜楽と「めにかる」を結成しユニットとしても活動。



―落語との出会いや落語の面白さを教えてください。

日本のアニメや漫画を子供の時にみて、面白い作品だなと感じ日本に興味を持ち始めました。日本語を学び、交換留学で南山大学と、中央大学に留学しました。南山大学では、4カ月間の短期間でした。中央大学でのサークルの新歓では、背が高かったのでバスケ部に声をかけられました。スウェーデンでも演劇の勉強をしていたので演劇部と、落語研究会の新歓ライブに誘われていってみたのがきっかけで落語研究会にも入りました。当時の中央大学のサークル棟は、学生だけが出入りしていて、すごくぼろぼろで散らかっていました。留学生は足を踏み入れなさそうなところで、深いところまで入ちゃったなと思いました。

三遊亭好青年

大学卒業後は演劇を学ぶための専門学校に通い、3年生の途中で落語の入門がきまり、本格的な落語の修行を始めました。世界的に見ても、日本の落語ほどミニマリスティックな芸能はないと思います。たった一人で、座布団に座り、小道具は扇子と手ぬぐいの二つだけ。そして、落語が面白いと感じるのは、お客様とのコミュニケーションだからだと思います。

演者の芸とそこにいるお客さんの想像力が一緒になって、噺の世界が広がっていきます。演劇のように舞台設備や音響もない、限られた状況だからこそ、芸を必死に磨いてより良いものができるとやりがいを感じますし、一期一会のお客さんの想像力とで、たくさんの可能性があることが魅力です。

落語には、「滑稽話」「人情噺」「怪談話」などのジャンルがあります。初めて人情噺を聞いたお客さんが、落語は滑稽話のイメージがあり笑いに来たのに、泣いちゃった、ということもあります。また、当日のお客さんの様子を見ながら、どの話が一番合うか直前に考えて決めたり、噺が始まってからも、お客さんの様子を見ながら話し方を調整したりもします。

―修行は大変でしたか。

最初の一番下っ端の時、前座といいますが、初めての事ばかりでとても大変でした。掃除やお茶出し、着物を畳んだりなど、いつも怒られていました。二つ目になり、楽になる部分と、仕事を自分でとらないといけないという新たな大変さはあります。

また、コロナ禍下では、落語の世界は前代未聞の不景気に見舞われました。政府からも大きな寄席をやらないようにという要請がでて、「戦時中でも寄席を続けていたのに、今回はやめないといけないのか」と。

めにかる

ユニット「めにかる」

―「めにかる」結成について教えてください。

兄弟子の三遊亭竜楽師匠と、2022年にユニットを結成しました。竜楽師匠は、海外公演を積極的にする国際派で、8か国語で落語をする唯一無二の落語家です。ユニット名の「めにかる」は、メニーカルチャーの略で、竜楽師匠が考えたのですが、日本人は何でも略すのが好きですよね。外国人と日本人が文化の違いを乗り越え一つになれる環境を、“笑いの力”で作り出そうというのが、このユニットの目的で、落語だけではなく多文化理解のための講演やワークショップも実施しています。

―日本が多文化共生社会に進むためには?

より海外の事にも関心を向けていくと良いと思います。同時に、日本という国について、どのような国にしていきたいのかを、政治家だけではなく、日本で暮らす皆がもっと考えて話し合っていくといいと思います。学校教育も、物事について自分でしっかり考え、それを人に意見を言えるようになるための勉強が必要だと感じます。日本のアイデンティティを壊さないように、でももっと平等に様々な人が活躍しやすい国を目指したいですよね。
 また、日本人は大人も子供も忙しくて、じっくり考えたり、ゆったりする時間が少ないと思います。

―今後の目標を教えてください。

現在は70~80の噺をもっていますが、もっと色んな話を覚えて、もっと芸を磨いて、真打を目指したいです。そのためには、やること、覚えることがいっぱいです。自分の話を創ったり、英語翻訳したり、今時はYOUTUBEもやらないといけない時代です。

落語のプロとして、外国人の自分でもきちんとした良い芸ができることを証明したいです。師匠からも、「外国人だからと、変な日本語で話すタレントのようではだめだと、日ごろから言われていますし、自分でもそうだと思います。「外国人だから難しいよね」と優しい気持ちで言って下さる方がよくいますが、それは覚悟がどれくらいかによると思います。中途半端な覚悟ではできないですが、プロとしての高い意識を大事にしたいです。
そして、これからも様々な国で英語落語をやって、世界に落語を広めていきたいです。

―後輩の留学生達には何を伝えたいですか。

日本は観光で訪れるにはとても面白く魅力的な国ですが、ここで生活しつづけるとなると、一員として認めてもらい深く入り込むには時間がかかり、簡単ではないと感じます。日本は、「内と外」という意識が強くて、悪気はないけれど、外国人の事をよく知らなくて傷つくことを言われることもあります。そのような時は「悪気はない、ただ知らないのだな」と前向きに受け流してください。一方で、面白いと感じるところは、最初は「大丈夫かな?外国人だから分からないのでは?」と、距離感があるのですが、自分のやっていることがちゃんと認めてもらえると、相手の接し方が変わり、ぐっと距離感が近くなります。私も、厳しい修行をきちんと乗り越えたからこそ、認めてもらえたと実感しています。

ですから留学生の皆さんも、「外国人だから」と自分を甘やかさずに、社会の一員として認めてもらえるように、向上心を持ってスキルアップの努力をしてください。せっかく日本に留学に来たので、サークルやバイトや、新しいことにチャレンジしたり、なるべく自分に負荷をかけて、母国語や英語を封印して、日本語でたくさん会話することをおすすめします。私も、同じクラスの留学生達と、楽な英語ではなくていつも日本語で話すようにしていました。日本で認められることは、大きな自信になります。頑張りましょう!


 
写真提供:三遊亭好青年、株式会社オフィスまめかな


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