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侯 斯凡さん(中国出身)
(阪和興業株式会社)
先輩後輩の関係がポイント
社会に出ればまたゼロから勉強
――現在の会社に就職するまでの経緯を教えてください。
私は留学生時代、新聞学科でマスコミを専攻し、ジャーナリストの道を志望していました。しかし日本でジャーナリストとしてやって行くのは難しいと感じましたし、すでに日本に8年いるので中国の情報に疎くなったようにも感じました。それで志望を変更し、かねがね日中間の貿易で自分が何かできるのではないかと考えていたこともあって、商社を希望しました。
就職活動は3年次の2月に始め、12社にアプローチして4年次のはじめに内定を頂きました。現在は、特殊金属を扱う部門に配属され、ニッケルやタングステン、モリブデンといった金属をスクラップから取り出したものをメーカーに売る営業をしています。
日本の会社に入って感じたのは、まず先輩と後輩の関係を重要視するということです。私は今27歳ですが、会社では新入社員であり、年下の先輩に様々なことを教わります。先輩と後輩の関係は日本の会社で人間関係をうまく作っていくための大きなポイントです。日本は集団の人間関係の中で成長していく社会であり、これは日本の文化です。例えば中国の場合は先輩後輩の概念が薄いので、その点には気をつけなければなりません。会社ではたとえ一年でも一ヶ月でも先輩は先輩なので、謙虚に話を聞くことが大切です。
私は日本ではじめて社会人を経験しましたが、それでよく分かったことは、学生のうちは日本の社会というものを本当の意味で理解することはできないということです。たとえ学生を20年やったとしても日本の社会は分からないでしょう。なぜかというと、まず留学生は大学でどうしても同じ国の人どうしで集まる傾向があり、日本人で完全に中国人と同じような友達をつくることは難しいのです。日本人というものは、社会人にならないと分かりません。
社会人になれば、いやな人でも付き合わなければなりません。好きな授業に出て好きな先生の話を聞き、好きなことをする学生時代のような生活はできなくなります。社会人になって出会う人はすべてお客様であり、付き合いたいタイプの人にも付き合いたくないタイプの人にでも平等に接さなければなりません。
とりわけ、日本人の上司との関係は大切です。それをクリアできればすべてが理解できるようになりますが、もしできなければ、日本という国と日本人は決して理解することができないと思います。
私は日本に来て8年目ですが社会人としては2ヶ月目です。本当の意味で日本を理解してまだ2ヶ月しかたっていないのです。居酒屋でアルバイトをしているような次元では、日本社会を体験したことにはならないのです。
――やはり学生時代から社会人並みのハイレベルなトレーニングを積んでおいたほうがいいでしょうか。
いえ、かならずしもその必要はないと思います。学生は学生らしく生活し、周りの日本人と積極的に交流すればよいのです。学生のときにしか経験できないことを何もせず、一切遊んだ体験も持たないで、いざ入社してから後悔するようなことのないようにしてほしいと思います。入社してからは1ヶ月もの長期休暇はまず望めませんので、旅行など、したいことは学生のうちにすべてしておいたほうが良いです。
また、これも大事なことですが、いざ日本の会社に入ると、自分の大学時代の専門や、文系理系かということすらあまり関係ありません。全く関係ないといっても良いかもしれません。ですから大学を選ぶときには、もし歴史学や文学などに興味があるならそれを優先するべきで、必ずしも社会人になるため必要なことを学ぶために大学を決める必要はないと思います。就職については、入学後の生活や、就職活動のときに様々な説明会に出て、それまで知らなかった業種を知り興味を持つようになるかもしれません。ですから最初は幅広い分野を体験し、知識を吸収していったほうが良いと思います。
実際の就職活動で大切なことは、計画を立てた上で努力するということです。学生時代に勉強したことで、社会に出て直接役に立つことは少ないかもしれません。しかし大学でひとつ勉強になることは、未知な知識を吸収する能力を身につけられるということです。その能力さえあれば、会社に入ってからもまた新しい知識の集積を作り上げられるのです。学生時代に図書館に行き、新たな知識を自分のものとして吸収する。4年間だけで学問を究められるわけが無いのです。しかし自学自習のノウハウは、たとえ専門分野が何であったとしても、努力しだいで大学時代に身につけることができるのです。大学時代に実用的な内容を学んだとしても、その学んだことを社会で体験してみないことには、実際に仕事ができるかどうかはわかりません。
例えば取引先の工場などに行くと、高卒の方のほうが仕事ができたりするのです。仕事の現場ではもちろん仕事ができるほうが偉いに決まっています。社会に出ればまたゼロから勉強です。学歴があるといってもそれは通用しないかもしれません。今留学生である皆さんは、そのような場にも適応できる基礎的な人間力を学生時代に身につけられるよう、ぜひ意識して過ごしてほしいと思います。
HOU SIFAN
1980年中国吉林省生まれ。中国の高校を卒業後2000年に来日、2002年3月に東京経営短期大学留学生別科を卒業後、同短期大学に入学。上智大学文学部新聞学科2008年卒。上智大学在学中に中国留学生学友会会長を務める。