李 恩民 氏
(桜美林大学国際学部助教授)
外国出身専任教員の役割明確に 相互理解促進の国際貢献と考えよ
――在日留学生の支援体勢の整備について。
現在、日本の大学には外国出身の専任教員が多数在籍していますが、彼らの役割をもう少し明確にして力を発揮してもらう必要があると思います。近年、就学生や留学生が金銭目的または精神的ストレスによって事件を起こす案件が増えていると言われますが、これは心のケアが足りなかったことが原因です。単にお金が無くて問題を起こすわけではなく、きちんと相談できる窓口が無いことが問題なのです。相談窓口が大学にあっても、留学生がどうしても打ち明けにくいことがあります。そういう場合は、言葉の壁がない母国出身の先生に相談に行けばほとんど問題は解決できます。例えば私のゼミ生の留学生は、授業料を期限までに納付できないといって相談に来たことがよくあります。それで私が立て替えるか、あるいは実情を事務局に詳しく説明するか、等の方法で対応しましたが、大体の場合は、大学は数ヶ月の猶予期間を与える対策を取ってくれます。とにかく相談に来てくれれば、教員ですから何らかの建設的な対策を講じることはできます。
留学生が外国人で相談できる人を作ることは本当に難しいです。原因としては言葉の問題のほかに、大学の教員に対して留学生が敬遠心すなわち尊敬心と同時に畏怖心を抱いてしまうということがあります。一般論で言えば、大学教員は「学問以外のことは指導する必要はない」と考える人が多いかもしれませんが、留学生にとっては、自分の人間形成は留学の主要な目的の一つですから、教員が相談に乗らなければならない場合もあると思うのです。若者の人間性の成長を促す教育機関としての大学の役割は大きいはずです。
また、人的ネットワークの構築も留学の大きな目的の一つです。友人の多さはその人の自信につながり、将来活躍するときには友人が大きな支えとなる場合が多いです。特に今の中国社会では、その人がどれくらいネットワークを持っているのかが人材として重視されます。日本の大学院で博士号を取るまでの5~6年間に指導教官以外に親しい人ができず、専門知識しか持っていないようでは、国際的な活躍の場を作っていないとみなされ、どこに行っても国際的な人材とは言われません。ですから留学生は自ら積極的にネットワークを構築していくことが必要で、学内外の交流イベントへの参加はそのための非常に有意義な手段だと思います。
――文科省は「10万人計画」の達成後、留学生の「質」の向上を重要視しているようです。
すべての留学生にノーベル賞を取れる人間を目指せと言うのは間違っています。相互に理解し合えるコミュニティーをアジアに作るためには、多種多様な人間が必要です。要するにその人が留学することで「国際的な視野を身につけた人材」になればいいのです。留学生受け入れは単に日本の国益のためでなく、世界の相互理解を促進するための国際貢献として考えるべきでしょう。したがって政策的には、将来どこに行っても通用する人材をいかにして育てるかが最大の問題です。
留学生は日本で身につけた経験を生かして生きていく限り日本との縁は絶対に切れません。彼らは留学後に日本の宣伝マンとなり、民間大使となるのです。留学生教育はすぐに成果が見えるようなものではありませんが、長い目でみれば、絶対プラスになることは間違いありません。在日のほとんどの留学生にとって、第二のふるさとは日本です。十数年後には中国・韓国等の日本へのイメージは絶対変わり、留学の成果が見えると思います。
その意味で今後は日本人学生にも積極的に海外に出てもらい、諸外国のことを理解してもらうことも必要でしょう。例えば政府は、今後10年間で日本人大学生を欧米だけでなくアジア諸国にバランスよく数万人規模で派遣するといった、相互交流の新しいビジョンを出すべきではないかと思います。
リ・エンミン
1961年中国生まれ。1992年来日、一橋大学入学。歴史学博士(南開大学)、社会学博士(一橋大学)。専門は日中関係史、中国近現代史、現代中国論。