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杜 進 氏 
(拓殖大学 国際開発学部教授) 


大学改革は企業・社会の変革必要  留学生が日本に定着できる方策を

 ――日本の留学生受け入れの方向性について。
 留学生を受け入れることは日本社会にとって望ましいことです。留学生は若く感受性が非常に豊かで、好奇心や行動力、異文化のバックグラウンドを持っています。本格的な高齢化・人口減少社会に突入している日本にとってはそのような人々は必要だと思います。
 日本社会は今、転換期に来ています。私が来日した二十数年前は、名の通った大学に入れば良い就職が保証され、大企業に入ればそれで人生の歩む道が大体決まってくる。企業の人材採用についても、即戦力を確保するためではなく、それなりの教養を持っている卒業生を採用してから養成して戦力にし、その仕事に対する熟練度を高めていく形でした。しかし今では個々人の知識、能力、経験が重視され、より専門性、創造性、総合的な知力、独創性を持つ人材が求められるようになってきています。そのような人材を得るためにも、また、社会の多様化を促進するためにも、留学生の受け入れはこれまで以上に大切なことになってくるだろうと思います。

――どうすれば独創性あふれる人材を多く呼び寄せることができるでしょうか。 
優秀な人材が日本に魅力を感じられるようにすることが必要です。例えば、やる気さえあれば日本の一流大学に入れるし、卒業後は一流企業に就職できることは優秀な留学生を惹きつける条件です。また、母国に戻っても日本に残ってもその他の国に行っても、日本で受けた教育が高い評価を受けられることも日本留学の魅力になります。ただし、それを現実にするには教育環境や制度の整備が必要だと思います。しかしそれは決して簡単なことではないかもしれません。
 大学教育の質を高めるためには、教育面だけでなく、日本社会の側にも解決すべき問題があります。これまで日本企業は、学生が大学で何を専門的に学んでいるかはあまり重要視してきませんでした。採用後に再教育を行うので、大学の人材養成能力に対してはあまり期待してこなかったのです。したがって大学の教育が甘くても何も文句を言いませんでした。そのような大学と企業との関係がいまだに変わらず続いていると思います。
 日本企業が今後、採用の基準を厳しくして、専門知識と能力とを備えた人にはすぐ何らかのポジションを用意するようになれば、大学側も緊張感を持って人材を養成するようになるでしょう。すでに一部では始まっているとは思いますが、そのような採用の仕組みが定着するにはまだ時間がかかりそうです。しかし企業や社会が抜本的に変わっていかなければ、大学の改革が難しいのも事実です。

――日本の外国人受け入れ政策について。
 外国人が日本社会の一員として生活する機会がこれからますます増えてくるでしょう。もちろん、日本は外国人ならすべて受け入れているわけではなく、様々な在留資格を設けてその制度の枠組みの中で受け入れています。しかし、単純労働者は受け入れないとしていながらも実際には国内に多数の外国人単純労働者が存在しているなど、この制度には問題点も多いので、一度見直したほうが良いと思います。
 例えば日本で長く生活した経験がある人々については、本人が望むのであれば積極的に受け入れても良いのではないでしょうか。同じ受け入れるなら、日本のことを何もわからない人よりも、留学経験がある人を受け入れるほうが望ましいでしょう。現状では留学生が卒業しても、日本で就職先が無い場合は帰国するしかありません。もう少し融通を利かせて、留学生が日本社会に定着できるような方策を講じても良いのではないでしょうか。例えば、卒業後母国に戻っていた元留学生がもう一度来日したい場合に、彼らを優先的に受け入れるような制度があれば素晴らしいと思います。そのように、何らかの形で理念と現実とのギャップを埋めるような入管制度の改革が必要だと思います。


と・しん
1988年一橋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。学習院大学東洋文化研究所助手、北九州大学産業社会研究所助教授、東洋大学国際地域学部教授を経て現職。専門は中国経済論。