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王 雲海 氏 
(一橋大学大学院 法学研究科教授) 


海外に身を乗り出し人材確保を  主体的な留学生政策へ転換必要

 日本は留学生政策をもっと「国策」として意識し、単に内閣府のみならず、文科省や入管などの各官庁、大学や教員個々人に至るまで、姿勢を一致させて挙国的に取り組んでいくべきです。
 日本政府は80年代に海外大学と交流協定を結び、優秀な学生を派遣してもらうという良い受け入れのモデルを作りました。しかし今ではその積極的な姿勢は失われてしまい、留学生は来るに任せ、来た人の中から優秀な人物を選んで奨学金を与えるという受身的な姿勢が見られます。今後は政府、大学、企業、教授が自ら積極的に海外に身を乗り出して、優秀な人材を日本に連れてきて育てるといった主体的・戦略的な政策へと転換していくことが必要だと思います。
 このような政策転換には、宿舎の確保など国内の受け入れ環境の整備が不可欠です。依然として留学生の宿舎探しには困難が付きまとい、一人の留学生を受け入れるのに教官個人が部屋探しや身元保証などの相談に対応するようなケースも多く、学問以外の事務的負担がかかりすぎています。この問題は大学や政府が組織的に取り組んで解決してほしいです。
 奨学金に関しては、企業が奨学金を出すことを奨励するべきです。税制面と名誉面での優遇措置を講じ、たとえば政府が毎年奨学金を出した企業をランキングして公表するなどの策も必要でしょう。他国と比べて日本政府や企業は奨学金を出しているほうですが、もっと目的に結びついた出し方をしたら良いと思います。奨学金を出した留学生が自社に就職するよう縛りをかける企業もあるようですが、それは日本の将来を長い目で見据えていないことの表れです。留学生政策は日本という国、文化、経済と世界との付き合いの問題であり、日本が世界の大国であり続けられるかどうかという高い視点から見なければなりません。一国の影響力や文化の発信力、経済を維持し拡大していくための一番基本的かつ効率的な方法が、留学生を受け入れ育てることなのです。ですから企業にとってはたとえ留学生が自社に就職しなくても、「するべきことだからするのだ」という気概の持てるような政策を考えなければなりません。
 今後も日本が世界の中で先進国であり続けようとすれば、将来は移民国家となっていかざるを得ないでしょう。世界のトップを走るためには、国籍に関わらず世界67億人の中から人材を探して受け入れるべきであり、そうした競争力のある人材の確保は先進国を維持するためのコストでもあります。移民国家となることが文化的になじまなければ世界の先進国であり続けることはできないのです。アメリカ社会が強いのは、高度人材と単純労働力を等しく世界から受け入れ、その両輪で社会を支えているからです。イギリスやオーストラリア、最近では中国もそのことを意識し、熾烈な人材獲得競争を繰り広げています。
 その意味で日本の入管政策は、ビザの名目と実態の不一致という大きな問題を抱えていると思います。現状として留学生に対する社会の期待は多種多様であり、単純労働力としての役割を期待している人もいます。私は今後、留学生ビザと単純労働ビザは明確に分けたほうが良いと思います。本当に勉強したい留学生にはきちんと奨学金を付ければより優秀な留学生が来るようになるし、一方の稼ぎたい人には堂々と稼ぎに来てもらえるようにすれば、不足している国内の労働力需要も満たされていくに違いないと思います。


おう・うんかい  
82年中国西南政法大学法学部卒。98年一橋大学博士(法学)。一橋大学助教授、ハーバード大学客員研究員を経て03年より現職。専門は比較刑事法。