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苑 復傑 氏 
(独立行政法人メディア教育開発センター教授) 


社会のニーズに即した教育を  30万人は世界的なチャレンジ

――このたび打ち出された「30万人計画」について。
 政府は高度人材誘致の一環としての留学生受け入れを考えているようですが、私としては少子高齢化問題の解決に留学生政策がどうかかわっていけるかがポイントだと考えています。実際にはおそらく10万人計画当時と同様、高度人材とあわせて多くの中間層やサービス労働者が入ってきて、労働者として生活の場に溶け込んでいくと思います。そうなると現在の少子高齢化社会のニーズにも合致しますので、政府がしっかりしたプロセスを踏まえて計画を実行していけば30万人という数字は実現不可能ではないと思います。
 その際に重要なことは、社会のニーズに即した教育を充実させていくことです。日本の高等教育機関は国公私立あわせて1000を超えていますが、そのすべてで高度人材を養成しようとするのではなく、例えば社会が必要とする介護の技能や福祉の知識を持った人材を養成する機能も必要です。社会のニーズという視点から総合的に考えた時はじめて30万人計画は実現していくのではないかと思います。
 また、政府が計画を出した以上は政府の財政投資、特に大学への投資は重要です。2004年ごろから英国タイムズ紙が世界の大学ランキングを出していますが、全体的に日本の大学の評価は低く、高等教育の質保証が問題となりました。現在各大学では教育の質向上や教員の教育力向上に取り組んでおり、英語による授業やインターンシップ、交換留学などを強化する大学はますます増えるでしょう。
 30万人計画は非常に大掛かりな実験ですので、取り組みのすべてが成功するとは思いません。あと10年少々の期間で30万人まで増やすという目標は、世界的なチャレンジであると思います。政府と大学は今までとは違う留学生の増やし方、新しい仕掛けを作る必要があります。中国の孔子学院は4~5年前に100拠点を作る計画でスタートしましたが、現時点で200以上あります。日本の大学は海外現地拠点での日本語教育や情報発信をさらに強化していかなければなりません。大学と日本語学校を一本化したり、大学が日本語学校の教員やプログラムを活用するなど、具体的な制度変革をしていく必要があると思います。
 実際に30万人も受け入れることは大変なことです。しかし留学生のハングリー精神は日本の若者に刺激を与え、社会の変化をもたらすでしょう。受け入れをプラスにしていく努力が必要です。タイムズ紙の大学評価指標には留学生比率と外国人教員比率が含まれていますが、それらが大学や社会にどのようなメリットをもたらしているかということまでは評価していません。それは今後われわれがチャレンジする中で、回答を出していくべき事だといえるでしょう。


1982年北京大学東方語言文学系卒。1992年広島大学大学院社会科学研究科博士課程後期単位取得満期退学。放送教育開発センター研究開発部助手、メディア教育開発センター研究開発部助教授等を経て現職。