Top向学新聞>内外の視点>鄭 仁豪 氏


鄭 仁豪 氏 
(筑波大学 人間総合科学研究科助教授) 


留学生は大切なパートナー  人間関係から学ぶもの多い日本留学

 ――日本は今後どのような理念をもって留学生を受け入れていくべきでしょうか。
 今までの受け入れは、経済的に豊かになった日本が周辺国に援助するという側面が強かったと思います。しかし、障害者のような社会的制約のある人々に対する援助もそうですが、留学生に対しても援助をするスタンスが強くなると「見返りが来ないとけしからん」という気持ちになりがちです。留学生を同じパートナーとして捉え、彼らに日本のことをもっと知ってもらうために受け入れるのだという気持ちが必要ではないかと思います。
 実際、既に周辺の国々は社会経済的にもある程度のレベルにまで発展してきています。留学生は、もう貧しい国から来た援助してあげる対象ではありません。共に生きていく大切なパートナーとしての接し方が求められています。国際社会の中で将来的には日本を正しく理解してもらう各国の優秀な人々を招くという観点から、受け入れの政策を練るべきではないかと思います。

――具体策としてどのようなことが必要でしょうか。
 留学という修学期間だけでなく、卒業・修了後も日本企業にたとえばインターンとして入ってもらい日本の社会や人々に触れる、あるいは米国のポストドクターのように、日本で博士号を取得した人が半年か1年、大学や研究所などで働けるようにすることなどが考えられます。学術交流とともに社会的相互交流の観点から、留学期間を中心として、来日前や修学後の時期も留学の一連の流れとして考えていくことが必要だと思います。
 例えば今の日韓関係を個々人のレベルで考えると、日本における韓国のイメージと同様、韓国における日本のイメージも非常によくなっていますので、将来的には日本に留学したいという人口層が増えることも考えられます。そのような人々により多くの情報を提供するとともに、留学後も日本の文化に触れる、人々に触れるという機会を設ける。その一連の相互交流の中心的な柱として留学という修学期間があるという形になれば、より大きな留学効果を上げられるのではないでしょうか。留学期間だけを取りあげてどうするかという発想は、もう限界にきているのではないかという気がします。

――人と人との相互交流という側面は、留学の重要な意義のひとつですね。
 留学で得るものといえば、学位もありますが、指導教員との人間関係や、同級生との人的ネットワークなど、そこでできるマンパワーが大きな財産になると思います。実際に私の周りにも、帰国後も指導教員や同級生との学術交流が続き、後輩には日本の大学への留学を勧めるケースは多く見られます。
 そういう意味では、日本留学の良さを海外に積極的に発信することも重要です。私は以前、日本と欧米圏への元留学生に対する比較調査を行ったことがありますが、日本への留学生の場合、学問以外に学んだこととしては、人々と触れながら、日本人の親切さ、責任感、まじめさ、市民精神などを学んだという人が多いです。それに対して欧米圏への留学生の場合は、社会的側面、つまり、民主主義、正義感、開放感、合理性などを学んだという人が多いのです。
 中国や韓国のように、社会経済的にある程度安定していくと、人々が次に求めるものは、やはり人との関係の中で学べるものだろうと思います。日本留学にはそれを学べる大きな資源があるので、そのような面ももっと発信していきたいと考えています。


ちょん・いんほ 
韓国生まれ。檀国大学特殊教育学科卒。1986年筑波大学大学院心身障害学研究科留学。1993年檀国大学非常勤講師、東京成徳大学人文学部助手、1996年筑波大学講師、その後助教授を経て、2004年より現職。教育学博士。専門は心身障害学。