Top向学新聞今月の人阿拉担格日楽さん


阿拉担格日楽(アラタンゲレル)さん (中国出身) 
(立正大学大学院 経済学研究科博士課程) 


中国の貧困問題を研究  日本の社会制度に学ぶ

――研究の内容について。
  私の研究テーマは「開発発展途上国における貧困問題」についてです。貧困は発展途上国の一番の問題で、開発経済学の中心的研究課題となっています。世界銀行が決めている貧困の定義は生活費が一日1ドル以下の状態をいいますが、発展途上国を中心として世界人口のほぼ5分の1にあたる8億人がまだ貧困状態にあるといわれており、かなり深刻な問題となっています。貧困が増えると人口爆発や、エイズの蔓延、環境破壊等が起こり、それが原因で暴動などがおこったり、テロに発展する危険性もありますので、それらは発展途上国だけにとどまらず先進国にもからんでくる大きな問題です。中国出身の私にとって先進国である日本の国際開発経済研究者の考え方や研究は大変参考になると確信しております。

――貧困問題の良い解決方法はありますか。
  私が主に研究対象としている中国では、まだ2500万人が貧困状態にあるといわれています。中国でも所得格差と所得分配の不平等が大きな問題になっていますが、その解決にはやはり地域ごとの施策が重要だと思います。80年代に、先に一部の人が豊かになるという「先豊論」を唱えて沿海地域を中心に開発を進めた結果、内陸部と沿海地域の間に大きな経済格差が生じました。これを解決するため政府は90年代に入ってから西部地域開発を行ない、外資系企業を中心に投資し内陸部のインフラ整備を行ない、ダムや道路などの建設に力を入れています。これは政策としては良いと思います。
  また、最近の税制度では裕福な人の税を増やし、その分を貧しい人々に助成金として配分したりしていますが、それも一つの所得格差を低減する方法だと思います。しかしまだまだ多くの人々は収入が少ないです。農民の生産する食糧を国が買い取る値段はすごく安いので、農民は現金収入があまりなく所得分配に不平等が生じています。また、金融制度も発展していません。これら社会制度的な面では日本に学ぶ点が多いと感じます。日本は資本主義市場経済ですが、今は中国も市場経済を取り入れ、資本主義国に近づいていますので、税制、金融、教育などの面でさらに整備が必要です。
  このように貧困は国の政策によって左右される問題でもありますが、一方で地域の教育レベルが低いことも大きく関係しています。また社会保障の不備なども問題です。国は政策としてそれらに投資を集中しなければならないと思います。

――日本で何か見本になることはありますか。
  日本は医療保険などの社会保障が整っています。中国では日本の国民保険のような制度がなく、農村地域の場合など入院費が全額自己負担しなければならなくなるなど問題となっています。また、教育面では日本は民間の奨学金制度等が充実していますが、中国ではお金がなくても才能はあるという人が勉強できる環境がまだあまり整っていません。教育の機会均等が実現すれば、人的資源の質も向上し、それにつれて社会もよくなっていくと思います。

――日本があまり貧困がないことで逆に失っていると感じるものは。
  最近リストラなどで自殺者が増えているということを聞きますが、それは経済発展に伴う負の部分だと思います。また、経済発展に伴い環境破壊も進行してきました。今は持続可能な経済発展を目指し、経済発展だけでなく同時に環境も浄化していかなければならないと思います。

――将来はどうしますか。
  教育者になりたいです。日本で学んだことで、経済のこと以外にも、日本の伝統的な文化や、児童館や保育園などの福祉面が社会制度として重要視されていることなどを伝えたいと思います。