Top向学新聞>内外の視点>黄 仁相 氏


黄 仁相 氏 
(国際基督教大学 社会科学科上級准教授) 


卒業後も含めた受入れ体制構築を  博士学位授与の基準定めよ

 日本の留学生受け入れ政策を考える場合、はたして日本留学のメリットが何なのかよく考えてみる必要があります。グローバル社会の中で英語圏への留学が好まれる傾向はどの国にもあり、可能であれば英語圏への留学を希望するのが一般的な流れだと思います。その中で、日本で学ぶ魅力を世界の学生にいかにして訴えられるのか。これは日本の教育システム全体の課題です。今後はシステム全体を競争力のあるものへと再構築し、留学のメリットを前面に打ち出した明確な受け入れのビジョンを定めるべきでしょう。
 私が留学経験のある大学院のシステムに限って考えてみたいと思います。修士課程の場合は、日本語のみならず実践的な英語も身につけられるような国際的なプログラムを構築すべきです。
 修士学位を取って就職を目指す場合、日本語能力だけでは自分の将来が不安であると感じる方も多いです。母国や海外での就職を希望する場合、問われるのは日本語力よりむしろ英語力なので、留学生には「日本留学を選ぶと英語能力が向上しないのではないか」という心配もあるのです。こうした事情を踏まえ、日本の大学院では、留学生の卒業後までを含めたトータルな受け入れ体制を考えていく必要があります。現在の日本の場合は好景気ですので、外国人留学生が卒業後、日本企業に就職できるようにサポートすることで彼らは非常に大きなメリットをこうむるだろうと思います。そのため、修士号を取得した留学生を対象に、企業の研修制度を紹介したり、日本人学生と同じように就職活動できるよう大学がサポートすることが必要です。そうすれば海外からの留学生は安心して勉強できるに違いありません。
 次に、博士課程について考えてみます。博士課程における留学生受け入れについての課題の一つとして考えられるのが、博士号学位の授与に関する内容です。特に日本の人文・社会科学系の大学院は、博士号をなかなか出してくれないといわれています。実際、取得までに7年、10年とむやみに時間がかかってしまう例も多いです。これには本人の能力、学業の結果、研究成果などいろいろな要因があります。
 普通の熱心に勉強し研究を行っている学生に対しては、明確な基準を満たせば早く博士学位を授与し、母国や日本、あるいは世界で活躍できるように大学として指導するべきですし、博士課程が5年であれば5年で博士号を出せるような明確な基準に従って指導するべきであると思います。一度入学した院生に対しては、「あなたは博士号を取るためにわざわざこの大学に来たのだから、われわれは努力してあなたを助ける」という姿勢で指導すべきではないでしょうか。また、日本では博士号がなくても国内で就職できるかもしれませんが、海外では、博士号の取得が確実もしくは取得済みでないと、採用の書類選考の段階で候補として該当しなくなるのが一般的です。最近は、日本も変わってきていると思いますが、それでも海外に比べると特殊な状況であると思います。日本の大学院は学位授与の明確な基準を定め、大学院生をその基準に到達できるように指導し、社会や世界に研究者を送り出さなければなりません。そうすることによって、海外から沢山の優秀な留学生が希望を持って日本に来ることができると思います。


ファン・インサン 
 韓国出身。漢陽大学卒。筑波大学大学院でM.S., Ph.Dを取得。専門は経済成長論、計量経済学、統計学。