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向学新聞2011年10月号記事より>


産学でグローバル人材育成を
 

産業界が求める人材と乖離  大学自体のグローバル化必要

 9月に産業能率大学経営管理研究所が、事業のグローバル化に対応する人材の育成や活用に関する日本企業の取組みについてのアンケート調査結果を発表した。従業員300人以上の企業142社が回答し、「グローバルリーダーの育成がうまく進んでいない」と答えた企業が76・8%に上った。グローバル人材育成が切実な問題となっており、現状打開のため産業界・大学が動き出している。

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 9月16日、経団連は「経団連成長戦略2011」を発表し、グローバル人材の育成について、経済界と大学等の連携強化や大学自身のグローバル化を求めた。具体的には、G30採択校と協力し、企業の経営トップによるグローバルビジネスについての講義や、企業へのインターンシップの単位化を試行的に実施すると表明。また、2012年度から「グローバル人材スカラーシップ」を創設し、国際ビジネスに意欲的な大学生に奨学金を支給して、海外留学を促す。帰国後の就職支援も予定している。

 大学に対しては、専門科目に捉われない幅広い視野と基礎的思考力を身につけるリベラル・アーツ教育の拡大や、世界的なリーダーとなる博士人材を養成する「リーディング大学院構想」に対し、積極的に対応するよう強調している。今回の提言には、産業界が求める人材と大学が輩出する人材との間に、乖離が生じていることが背景にある。

 しかし、大学も変わり始めている。先頭に立ちグローバル人材育成を牽引しているのが、国際教養大学、国際基督教大学、立命館アジア太平洋大学、早稲田大学国際教養学部の「グローバル4大学」である。

 国際教養大学は2004年秋田県に新設された大学で、ほぼ毎年就職率100%となっている。リベラル・アーツ教育や、TOEFL550点以上を取得し、1年間正規授業での海外留学を経なければ卒業できないカリキュラムを導入している。国際教養大学の中嶋嶺雄学長は、「グローバル化の時代とは、相互依存の時代である。どのように信頼を得るかが大事であり、教養と人格を備えて初めてグローバル人材と言える。また、知識の発信と受信ができなければならず、外国語の運用能力が決定的に重要」と同大学のカリキュラムの必要性を述べる。

 また、国際基督教大学は、最も早く世界標準の大学作りを実現している。1953年に、日本で初めての4年制教養大学として誕生し、リベラル・アーツ教育と英語・日本語を公用語とするバイリンガル教育を行ってきた。国際基督教大学も、例年ほぼ就職率100%を誇っており、多くの卒業生がグローバル企業に就職している。

 大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学は、2000年に開設され、全学生約6000人のうち、外国人学生が半数近くの2600人以上を占めている。国内学生と外国人学生の比率が5対5という特徴を掲げているが、学部レベルでは世界でも類を見ない数字である。同大学国際経営学部の横山研治学部長は、「別府という場所で、日本人学生と国際学生が4年間一緒に生活し、様々なものをシェアしていく中で家族のようになっていく。他人を愛し、自分の家族として受け入れる力こそが多文化適応能力であり、ここで身に付けた力は、全く別の機会にも応用できる」とグローバル人材育成に必要なのは環境が育む力だと指摘している。

 また、グローバル4大学の中で唯一の総合大学であり、大学としての規模、多様性が最大なのが早稲田大学国際教養学部である。同学部は2004年に開設され、英語による授業、海外留学の義務化を行っており、積極的に日本人学生のグローバル化に力を入れている。創立125年以上の伝統校としては、画期的な取り組みである。佐々木ひとみ事務長は高等教育の問題について、「今は、自分とは異なる多様な価値観をもつ人と、主体的に一緒にゴールを目指すことができる人が求められているが、日本人だけの教育になっていることが問題」と指摘。また、「日本の高校でも多様な経験を積む教育ができていない。まず、社会に最も近い大学や大学入試が変われば、高校の勉強も変化していくはず。例えば、本学の入試はリスニングを重視しているが、活きた英語を学ぶことが必要だというメッセージを高校生に送っている」と、グローバル人材の育成には、大学だけではなく、中等教育の改革も重要だと指摘する。

 グローバル人材の育成は、日本の未来を左右する。企業や大学を始めとした全ての教育機関が、連動しながら問題解決に取り組んでいかなければならない。




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